【地方再生・創生論 205】差別のない国にする 日体大理事長 松浪健四郎

  • 2021年3月15日

松浪氏

 昨年の大みそか、共同通信の外電は、アメリカのボストン市にあるリンカーン第16代大統領の彫刻像が撤去されたと伝えた。元大統領と元奴隷の黒人男性をあしらった像だ。黒人男性がリンカーンの前で半裸でひざまずく。1862年9月、リンカーンは奴隷解放予備宣言を公布、翌年の1月1日に解放宣言を発布した。

 ひざまずく黒人男性が、感謝の意味での態度なのか、それとも奴隷としての振る舞いなのか判然としないが、黒人差別反対運動を受け、撤去要請の声が強まった。昨年、アメリカでは、植民地主義や奴隷制度容認の象徴だとして、コロンブスや過去の英雄像を相次いで撤去させた。時代の流れであるに加え、人権問題の1丁目1番地であろう。

 アメリカは、「自由」を大切にする国だ。だから、差別もあっていいと決めつけているわけではない。「私権」も大幅に認めるが、コロナ禍の感染は、この「自由」と「私権」が混ざって大きく拡大し、多数の犠牲者を出した。中国のごとく強権を発動できない国だ。

 戦後、アメリカ遠征した日本の水泳選手たちは、「ジャップ」(日本人野郎)とののしられ、移民の日系人たちも差別を受けた。1968年に留学した私も、地方での大会(レスリング)では「ジャップ」と野次られた強い記憶がある。差別される側に立ってみて、初めてその苦痛を認識することができる。が、差別のあるのは、アメリカだけにとどまらない。

 昨年9月中旬、山本一太群馬県知事が、「新規感染者90人のうち、外国籍とみられる人が約7割に上った」と発表し、「特にペルー、ブラジルなどの方が多いように見受けられる」(毎日新聞)と述べたのだ。この発言は偏見を生む。あえて国名を取り上げる必要があっただろうか。たまたまの感染者数で差別をあおっているかの印象を受けるのは悲しい。

 地方自治体のトップの発言だけではない。わが国の政策の中でも差別と偏見が堂々と定着してしまっている。全国の朝鮮学校への補助金打ち切りは、見事な差別である。各地での裁判も行政側が正しいと判決で述べるが、それは人間としての、風格ある1等の国家としての声としては誠に恥ずかしい。かかるメッセージは、拉致問題の解決を難しくしていることに、なぜ気づかないのだろうか。

 川崎市は条例でヘイトスピーチ禁止を定めた。国や県が行わないなら、市町村という自治体が条例で対応する。川崎市の独自性に拍手を贈りたい。朝鮮学校の存在する自治体は、国や都道府県が補助金を出さないのなら、たとえわずかでも拠出する勇気はないのだろうか。独自性の発揮できない自治体は、一片の正義感もなく、国家の奴隷になって納税者心理を無視してはいまいか。

 一度たりとも差別を受けた経験のない政治家たちは、差別を受けている人たちの心情を理解できないのだろうか。在日朝鮮人の人たちの苦悩を少しは思いはせてほしい。同じ日本人でありながら、歴史的にも長きにわたって差別を受けてきた被差別部落の人たちの悲しい記憶も忘れがたい。

 技能実習生が増加するにつれ、全国に移民の町ができる。政府は2019年に特定技能という在留資格を作り、これまで認めてこなかった単純労働の外国人も受け入れることができるようにした。人手不足の業種では貴重な戦力となっていて、農業や漁業、建設現場や介護やビルメンテナンスなどの82の職種で受け入れが進む。それだけに、いかなる差別も認めず、偏見をもたない社会を私たちがつくる義務がある。各自治体で、そのための条例を成立させ、日本人の矜持(きょうじ)を見せるべきである。

 ドイツは、全人口の2割を移民とその関係者で占める。法を整備して雇用改善に努め、外国人住民への手厚い対応で評価されている。やがて日本も、外国人が現在の285万人からさらに増加する。偏見のない差別のない国にするためには、外国人は単なる労働力ではなく、1人の人間として受け入れる社会でなければならない。

 
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