【地方再生・創生論 204】日本版「ズルハネ」を各地に 日体大理事長 松浪健四郎

  • 2021年3月11日

松浪氏

 イランの首都テヘランの中央を「フェルドウシィー通り」が走る。イランでは太い通りの道路を、歴史的に有名な詩人、歌人、作家の名前をつける傾向にある。フェルドウシィーの作品は「東洋文庫」(平凡社)にも収録されている。特に有名なのは英雄叙事詩「王書」(シャーナメ)だ。シャーは王、ナメは本を意味する。

 「王書」の中に「英雄ロスタムの物語」がある。この物語は、ペルシャ(イラン)のみならず、かつての広大なペルシャ文化圏でも知られている。いわば、日本の御伽噺(おとぎばなし)のようなもので、金太郎や桃太郎の物語に該当するといえる。英雄ロスタムは、ペルシアン騎士道の象徴的な騎士、イラン人ならば誰もが知っている。過酷な風土下で育まれた思想が集約されているばかりか、国境線を多く持つ国の宿命の中で誕生した英雄叙事詩ともいえようか。

 この物語の詳細について記述する紙幅を持たないので割愛するが、フェルドウシィーの代表作である。この物語の説明を冒頭からした理由は、イラン人たちが毎日トレーニングをする際、ロスタムの物語を掛け声よろしく音頭にして用いているからにほかならない。

 イランのどの地域の町や村落を訪ねても、「ズルハネ」と呼称される建物がある。ズルは力、ハネは家、力の家だ。つまりイラン人のトレーニング場である。三三五五、夕方になると老若男子がズルハネに集う。トレーニングをするためだ。誇り高きペルシャ人(イラン人)たちは、習慣として毎日のようにトレーニングをする。トレーニング自体もズルハネと呼び、彼らの健康法となっている。

 イラン人の肉体は、強靱(きょうじん)である。細いひ弱な人が少なく、ズルハネの普及度を知る。この国の国技は、重量挙げとレスリング。オリンピックでも多くのメダリストを輩出してきたが、ズルハネの影響が大きかったと私は読む。ズルハネの室内は大理石を用いた豪華さ、音頭をとる男が鐘や太鼓の打楽器に囲まれた一段高い所に座り、男衆の動きをチェックする。

 肥満体のイラン人を見かけないのは、イラン人の身体観が筋肉美に固定されていて、ペルシアン騎士の一員という考えを持つからであろう。伝統からくるズルハネ、私たちの日常生活からでは想像しづらいものがある。日本人は、身体観や健康観をあまり保持せず、サプリメントや健康食品にこだわる。

 ただ近年、全国的にトレーニングジムが普及し、24時間営業が人気を呼ぶ。が、このコロナウイルスによってジム内でクラスターが発生するというニュースが各地にあり、経営者が苦しんでいる。また、地方自治体によっては、体育館内に多種多様なマシンを入れて近代的なトレーニング場を造っている。

 美意識の高い女性がトレーニングジムで汗を流し、美容に取り組む。運動不足の男性もジム通いをしたり、プールで水泳を楽しんだりしているが、トレーニング不足は否めない。働き方改革がなされ、比較的自由に時間のとれる人たちが増加している。この人たちにイランのズルハネよろしく、トレーニングできる場の提供について自治体は考えるべきだ。少子化によって、小中学校の教室も余っている。有効活用はトレーニングジムを造ることだ。そして、日本人に身体観を身につけさせたい。

 歴史的にイラン人たちは闘える肉体づくりに励んできた。地政学的に、いつ戦争になっても闘える準備が必要だった。英雄ロスタムに近づける男でありたいと願い、筋肉隆々の身体観を国民共通のものとしている。わが国民は、肥満崇拝、肥満信仰を続けてきた。肥満体の七福神信仰でも理解できようが、貫禄がある、恰幅が良いと表現するように肥満崇拝が近代医学の発展する前まで一般的だった。

 長寿社会を健康で築き、医療費の削減を考えたならば、人々にトレーニングを奨励するがいい。日本には、ロスタムのようなモデルが不在だが、各自治体は率先してトレーニング場を造ってほしい。日本版「ズルハネ」を政策の一つとして取り組む自治体の出現を待つ。

 
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