【地域創生と観光ビジネス71】箱根を極む「強羅花壇」富士や京都の開業でさらなる高みへ 淑徳大学経営学部観光経営学科学部長・教授 千葉千枝子


 「強羅花壇」を知らずして、世界水準のRyokanを語ることはできない。戦後、皇室離籍をした閑院宮(かんいんのみや)様が避暑用の別邸を、宿泊施設として創業した歴史を持つ強羅花壇。旅館業としての今の姿は、バブル期の89年からで、ラグジュアリー旅館のさきがけとなった。仏本拠のルレ・エ・シャトーに92年に加盟し、02年にはウェルカムトロフィー賞を受賞している。

 箱根の近代リゾート史をひも解くうえで、旧旅館業法の洋式・和式の分類になぞってみると分かりやすい。前者が宮ノ下の富士屋ホテルなら、後者は強羅花壇で決まるだろう。

 総客室数は全41室。塩野邦弘総支配人にお願いしてチェックイン時間より早めに入り込み、館内を視察することに。それがびっくり、袴(はかま)姿のお出迎えだった。よく見ると、男性従業員の多くが袴姿で接客している。日本全国、さまざま泊まり歩いたが、袴のユニフォームは初めてで驚いた。

 ハーフティンバー様式の閑院宮別邸から伸びる120メートルもの列柱廊は、まさに建築美。ガラス戸から明るい陽が注ぐ。このシンボリックな廊下の先には、月見台が配置されており、風呂上がりの夕涼みや秋にはお月見も楽しめるという。

 大浴場は広々、野趣あふれる露天風呂や岩盤浴、家族風呂、スパも完備されている。青く水をたたえた室内温水プール、フィットネスジムには最新鋭のマシンがそろう。

 客室は、それぞれ眺望や趣が異なり、特に日本庭園が望める部屋は解放感がある。今回は予算を抑えてスタンダードの客室にしたが、(次は、貴賓室に奮発しよう!)と見学しながら心に決めた。掛け軸や絵画、生け花に至るまで、全てが計算し尽されている。外国人スタッフも接遇がいき届いていた。

 実は今回のご縁は、同社の人事担当者がつないでくださった。広報ではないことを申し添える。

 というのも、25年夏に「強羅花壇 富士」(静岡・小山)が、26年春には「強羅花壇 京都」の新規開業が予定されている。強羅花壇ブランドが、さらなる高みをめざすなか、ホスピタリティ人材の獲得が急務となっているのだ。そこで実際のクオリティに触れてみようと、自腹宿泊を申し出た。

 百聞は一見に如かずだった。学生を導く立場の自分が、今まで以上に高級旅館の進化を知らねばならない。そして旅館を志す人材を、いかに輩出するかが重要だと痛感した。これからは外資系ホテルに憧れる学生に対して、「それ、ちょっと待って」と一拍、置かせることになりそうだ。

 ちなみに、「強羅花壇 富士」は全42室スイートの富士山ビューで、36ホールのゴルフ場も併設する。「強羅花壇 京都」は、旧九条山浄水場跡地の御所水道を生かしたプロジェクトで、長期滞在も可能な空間重視の32室で展開予定という。

 スイス取材旅でレーティッシュ鉄道の世界一遅い特急「氷河特急」に乗ったときのこと。終着駅のサン・モリッツで「箱根登山鉄道」の日本語表記が目に飛び込んで胸が熱くなった。両社は姉妹提携の仲である。旅情を醸す終着駅の強羅を、訪ねたがる外国人が多いのもうなずける。

(淑徳大学 学長特別補佐・経営学部学部長・教授 千葉千枝子)


(観光経済新聞2025年3月3日号掲載コラム)

 
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