川底の小石がくっきり見える。流れが穏やかな名寄川を出発したカナディアンカヌーは途中、一級河川の天塩川と合流して、さらに速度は落ちていった。清さ際立つ名寄川と違って、大河の天塩川に透明感はないが、悠々たる流れが心地よい。青い空と濃い緑が広がり、人造物は一切ない。そこに美しいコバルトブルーのカワセミが姿をみせた。大自然に包まれた至福のとき。それはまるで人生のようでもある。この歳になれば無理に競い合ったり、急いだりはせず、お役に立てることをしたい。そんな気持ちになった。
インストラクターの森和季さんが後方で、パドル操作を指導してくれるので安心だ。先の冬にはパウダースノーサファリで世話になった。都内大学を卒業後、銀行員を経て、地域おこし協力隊として出身地の北海道に戻ってきた森氏は生粋のアウトドア派で、名寄のアクティビティ商品を支える。
筆者はこれまで、鹿児島・奄美のマングローブカヤックやフィリピン・エルニド諸島でカヌー体験をしたが、これほど穏やかなカヌーイングは初めて。魅了された。
兼任する中央大学の教え子たちが今夏、「なよろ観光まちづくり協会」での地域創生インターンシップに臨んだ。同協会としては初の学生インターンシップ受け入れで、栗原智博会長はじめ協会の皆さまには、この場をお借りして厚く御礼申し上げる。
学生たちはトマトなどを収穫しながら農泊し、日中は協会の運営に参画した。映画のロケ地にもなった広大なひまわり畑での「なよろひまわりまつり」や、先述のカヌーをサイクリングと組み合わせた「サイクリングカヌー」、「サバゲー(サバイバルゲーム)」等、夏の名寄の主力商品を運営補助したのである。休日は森氏の運転で稚内を案内してもらい、岬めぐりをしたそうで、唯一無二の最高の夏になった。
首都圏から名寄へは、旭川空港からJR旭川駅へ出て、宗谷本線を利用するのが一般的。その旭川はインバウンドであふれているが、名寄にはいまだ至っていない。だが、それも時間の問題だろう。
最終日の成果発表会で学生たちは、名寄へのアプローチに稚内エリアからの南下による集客のあり方を提案した。一大消費地・旭川からの誘客一辺倒だったところに、面白いアイデアだなと感心した。稚内には客室数が多い大型ホテルもそろう。
ただ心配なのは鉄道アクセスである。宗谷本線も多分にもれず赤字ローカルで、維持存続には多くの課題を抱えている。例えば、鉄道ファンに人気の最北の無人駅「抜海駅」が、今年度を最後に廃止になるかもしれない。そうした寂しいニュースも聞こえる。
北緯44度。河川流域に広がる名寄盆地は、年間の寒暖差が60度で冬は極寒。市は「厳しい」というイメージを逆手にとって、それを「楽しみ」に変えるという発想をまちづくりに生かしてきた。「名寄の冬を楽しく暮らす条例」というユニークなネーミングの条例からも、その理念がみてとれる。人口が少ない割には飲食店が多く、学生たちは、なぜかダーツの腕を磨いていた。
名寄市の加藤剛士市長におかれましては、公務ご多忙のなか駆けつけてくださいまして、誠にありがとうございました。
(淑徳大学 学長特別補佐・経営学部学部長・教授 千葉千枝子)