【口福のおすそわけ 396】お赤飯って、ナゼ赤いの? 竹内美樹


竹内氏

 新年号となる今号。去年の今頃、次に新年を迎えるまでコロナ禍が続くとは思ってもみなかった。つくづく、人間って無力だと感じる。医療関係従事者の皆さまや、新薬開発など人類を救うために奮闘されている方々は別として、われわれ一般人は神頼みしかない。少なくとも筆者はそうだ。

 妖怪「アマビエ」が一躍脚光を浴びたのも、人々のそうした心理の影響だろう。同様に江戸時代、天然痘が流行した際、人気を博したのが「疱瘡絵(ほうそうえ)」、通称「赤絵」である。その名の通り赤一色で摺(す)られた版画が、護符代わりとして出回ったそうだ。疱瘡とは天然痘のこと。多くの人が命を落としたり、失明したりしたが、治療法は確立されておらず、なすすべもなかった。

 発病するのは、疫病神に取りつかれたからと信じられていたので、疱瘡をやっつける守り神と崇められていた鎮西八郎こと源為朝や、いかにも疫病神を追い払ってくれそうな金太郎や桃太郎などが描かれた赤絵を、家に貼ったり枕元に置いたりしたという。でも、ナゼ赤なのか?

 前置きが長くなったが、コレってお赤飯が赤いのと同じ理由だ。赤色は古くから邪気を払うとされ、疫病・災難除けに効果があると信じられてきたのだ。古代、そんな赤色の「赤米」を蒸して神に供える習慣があったという。その後、赤米の生産量が減ったため、もち米に小豆やササゲを混ぜて赤く染まったお赤飯を、赤米の代用としてお供え物にしたと考えられている。そのお下がりを食すことで、人間も邪気を払う力をいただくという「神人共食」思想があった。

 武家社会の関東では、皮が破れやすく切腹を連想させる小豆でなく、皮が強く割れ難いササゲを使うが、こうしたこだわりも、お赤飯が特殊なパワーを持つ神聖な食べ物だからだ。

 赤色に着目すると、江戸時代の人々が、疫病除けに用いた赤い物は、他にもある。一つは「赤べこ」。牛の形の赤い張り子で、会津地方の郷土玩具である。起源については、平安時代にまん延した疫病を払った赤い牛の伝説、江戸時代に起きた会津地震で壊れたお堂の再建のために活躍した赤い牛の伝説などがある。

 赤べこの胴体に描かれた黒い点は、疱瘡を表すといわれる。厄除けの赤に塗った牛を玩具として子供に与え、身代わりになってもらおうと考えたようだ。

 達磨大師の座禅姿を模した赤い「だるま」も、江戸時代には縁起物というより疱瘡除けとしての需要が高かったそうで、赤絵のモチーフにもなっている。ちなみに、祈願の際、左に黒目を入れ、成就すると右にも黒目を入れる風習は江戸時代に始まったとされる。「目無しだるま」を買って目を入れることで、疱瘡による失明を避けられると信じられていたらしい。

 赤にまつわるさまざまな厄除けがあると分かった。いざ、お赤飯でパワーチャージだ! コロナなんかに負けないぞ! 2022年こそコロナ禍が収束して、良い年になりますように♪

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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