宿泊業、コロナ禍から復興へ
全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)は、毎年6月に開催していた全国大会を、新型コロナウイルス感染拡大の影響で9月24日に延期。約千人の組合員旅館・ホテル経営者、従業員らの参加募集を取りやめ、開催地(山口県下関市)からのライブ配信を行うこととなった。異例の全国大会開催を前に、多田計介会長(石川県・ゆけむりの宿美湾荘社長)にウィズコロナの状況下での全旅連の取り組み、コロナ禍からの復興に向けた思いを聞いた。(聞き手=編集長・森田淳)
固定資産材減免など各種支援 業界が連携、粘り強く交渉
――コロナ禍の状況が半年以上続いている。国や自治体による支援の制度や観光キャンペーンも行われて、一時のどん底から脱した感もあるが、依然として予断を許さない状況だ。組合員旅館・ホテルの現状をどう捉えているか。
多田 GoToトラベルキャンペーンについては、東京が発着地から除外されたために、東京を主なマーケットとしている旅館・ホテルからは、一部で「効果がない」と言われている。だが、ほかの地域の人たちからは「プラスになっている」と言われる。私の旅館や地域では、GoToで実際に人が動いている。部分的かもしれないが、私は一定の効果が出ていると思っている。
ウィズコロナの状況で、感染拡大防止と経済の両立が叫ばれており、GoToはまさにその両立に向けた政策だ。
ただ、われわれ業界と関係のない一部のマスコミは、アゲインストの話ばかりをしている。政府がすることは全て面白くないようで、「非」ばかりを強調している。
障がい者や病気の人に配慮がないという記事があった。キャンペーンで感染が日本中にまん延したらどうするのだという論調だ。しかし、その人たちに直接聞いても、そんなことはないと言う。賛否はあるだろうが、一方的な報道が多すぎる。
報道が必要以上に人々を脅かし、差別を助長するようなことをしている。ある県の旅館では、東京ナンバーの車が止まっていたら、抗議の電話がかかってきたという。このままでは住民の人も感染したらそこに住めなくなるような状況になってしまう。そんな社会にしてはいけない。
安倍政権のコロナ対策は後手だと言われていたが、世界と比較してどうか。圧倒的に死者が少ない。そこは評価しないのだろうか。
ロックダウンをするのは簡単だが、そのツケは大きい。それをしないでここまで抑えられたのは、政府の政策と、国民の意識の高さだと思う。
コロナ禍の約半年間、組合員旅館・ホテルの経営が大変なのは周知の事実だが、感染拡大防止とともに経済の復興を目指した一連の政策は、完璧ではないが、少しずつ成果を上げている。
――無利子無担保融資や雇用調整助成金の特例措置など、国や金融機関の支援策も、今までになく幅広くできた。
多田 観議連の先生方を中心とし、全旅連も奔走して、他団体と連携し、要望活動を繰り返してさまざまな制度が出来上がった。ただ、無利子無担保融資ができたといっても、われわれにとっては借金ばかり増えていくわけだ。
そこで、真水が必要だと、着目したのが固定資産税だった。われわれは粘り強く交渉して、2021年度分については、3カ月間の売り上げが前年の30~50%減で半額、50%以上減で全額免除とした。固定資産税はわれわれにとって大きい。多くの経営者が助かったと思っているだろう。
――GoToが始まる前の、県による県民対象のキャンペーンも、各地でかなりの反響があったようだ。
多田 ある県で始まったものが、あちこちで行われるようになり、合計40以上の県などで行われるようになった。
各地の情報が全旅連の本部に集積される。「良い取り組みをモデルケースとして、わが県でも行おう」という意識がわれわれにはあり、それが域内キャンペーンの実現を加速させたのではないか。
GoToトラベルキャンペーン 青年部が奔走、直予約可能に
――近場の人たちに近場の観光地や旅館の魅力を知ってもらう一つのきっかけになった。
多田 人間にはリラクゼーションが必要だが、それは必ずしも遠くに行くことではないと、皆さん気付いたのではないか。
そしてクラスターのようなことが温泉や旅館がらみではほとんど聞かない。
――各旅館・ホテルが業界のガイドラインをしっかり守っているからではないか。
多田 Go Toトラベルキャンペーンへの参加条件の一つが、旅行者全員の検温と本人確認。これは赤羽(一嘉)国交相の強い要請で、特に全員の検温は簡単にできることではないが、やらなければならなかった。これだけ社会的に言われているので、体調が悪い人は自重して来ないから、事故はほとんど起きないということもあるのだろう。
もちろん、従業員も体調管理は相当気を使っている。
――感染防止のための設備に相当費用が掛かっているだろう。
多田 費用はもとより、手間が大変だ。うちは消毒の工程だけでも随分変わった。相当、手間を掛けている。換気もそうだ。皆さんそうだと思う。
あとは従業員の手洗い、うがい。手指の消毒は手荒れがしない次亜塩素酸水がいいそうだ。
――あとはソーシャルディスタンス。客室をフル稼働させない旅館・ホテルもある。
多田 ソーシャルディスタンスは大事だが、客室は100%稼働でも、個人的にはあまり影響はないと思う。そこは経営者の判断だが。
――ウィズコロナでサービスの仕組みがかなり変わっただろう。
多田 うちの例では、お客さまが到着した際、車をお預かりして駐車場に運ぶことがなくなった。お客さま自身でしてもらう。繁忙期はこの業務でかなりの人数が割かれたのだが、それがなくなった。
料理の説明は要点だけ。
個室の食事どころをたまたま最近、新たに作ったのだが、従業員がお客さまとなるべく接触せずに、タブレットで注文を受けている。意外だったのは、飲料の売り上げが上がったことだ。お客さまにとっても注文しやすくなったのだろう。GoToで補助を受けた分を回していることもあるだろう。
これは残念なことだが、ウィズコロナでお客さまのチェックイン時間が早くなったとも感じる。観光地や観光施設など、お客さまの昼間の受け皿が、まだあまり整っていないせいかもしれない。早く元に戻ればと思う。
――宿がGoToのお客さんを直で受けられるよう、青年部が奔走した。
多田 4月16日に青年部の鈴木(治彦)部長が意思のすり合わせをしたいとやって来た。「(流通の)“生態系”を崩してはいけない」「コロナによって直予約のチャネルをなくしてはいけない」と、鈴木部長が頑張った。県独自のキャンペーンは、OTA経由が多いのだが、全国のキャンペーンでは、直予約ができないのは問題だと思った。
――キャンペーンで対象外とされた東京も、近々の対象入りが見込まれている。
多田 東京都民が期待しているだろうし、旅館・ホテルの方も東京マーケットの濃いところは、かなり早くから恩恵を受けるだろう。
組合員へプラス情報を発信 国や自治体へ引き続き要望
――全旅連はウィズコロナに対応する調査研究会の設置を決めたというが、どんな活動を。
多田 ポストコロナの前段階の、ウィズコロナの時代に、われわれはどう経営をしていくのか。金融面や衛生管理の面など、さまざまな観点から情報を収集して、組合員旅館・ホテルと共有しようというものだ。7月の正副会長会議で設置を決めたが、今後事業を進めるに当たり、さらに皆さんのコンセンサスを得たいと考えている。
――コロナ以外でも毎年起きる豪雨、台風、そして地震など、自然災害への対応も含めて、業界には課題が多い。
多田 国民の命を守ることは、国が行わなければならない大きな課題だ。われわれはそれに寄与できる。
都道府県と、われわれ都道府県旅館・ホテル組合との災害協定は、42カ所以上が締結を完了している。全ての都道府県が締結できるよう、われわれは今、頑張っているところだ。
業界の地位向上について、私は徹底的に行いたいと思っている。国や国会議員の先生方には、災害協定も含めて、われわれが社会の役に立つ存在だということをしっかりアピールして、認識を深めてもらいたいと考えている。
――今年の全国大会は、いつもと様相が違う大会になる。
多田 組合員がほぼいない形での開催だ。都道府県旅館・ホテル組合の理事長などは、前日に全旅連常務理事・理事合同研修会に参加し、翌日、大会会場に集まるのだが、ほかの方々は招集しないことになった。人数を例年の半分程度に抑えて開催することに一度は決めていたのだが、開催地の自治体のガイドラインが厳しくなったこともあり、今回はそういう措置となった。
会場にスタジオを構えて、そこから大会の模様をライブ配信する。
――前例のないリモートでの大会。全国の組合員旅館・ホテルには何を訴えるか。
多田 皆さんは今、大変な思いをして宿の経営をされている。
私も同じ立場だが、少しでも皆さまの経営のプラスになる情報や、危機から宿をガードするための情報を発信しなければならないと考えている。また、この過去にない業界難の中、国や自治体に要望を引き続き挙げて活動していくことをお約束する。皆さまが少しでも元気になれるように、しっかりとお伝えしたい。
結びに、私自身が自分に言い聞かせていることがある。「気の持ちようで未来は変わる。駄目だと思ったら本当に駄目になる。こんなことぐらいで負けてたまるか」という強い思い、粘り強さが必要だ。
釈迦(しゃか)に説法だが、私たちはお客さまを癒やし、笑顔にする大事な役割を担っている。みんなでこの難局を乗り越えるために頑張っていきましょう。
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