【体験型観光が日本を変える38】体験がものを言う 藤澤安良


 全国各地の映像から都道府県名や地名などを当てる超難問とされるクイズ番組で、東京大学のクイズの精鋭たちと知識力のある芸能人が戦って芸能人が勝利した。知識よりも現場に行ったことがある人が有利であった。つまりは、全国各地に伺っている私にとって、ほとんど正解できる問題であった。経験、体験がものを言うという意味である。

 就職時の面接でも学生時代に何をしてきたか、どんな活動をして、そのとき何を得たかなどと聞かれることになる。スポーツでオリンピックや全国大会で好成績を収めたり、高校野球の甲子園で活躍したり、楽器や声楽で道を究めたり、芸術で名を馳せたりといった経験を持つ人ばかりではない。とりわけ、学校、塾そして家庭と、学業一辺倒で来た人には、そうした分野で語れることがない。就職活動前に何かの体験が必要だとして、数十万円の費用がかかる海外でのボランティア活動などの企画に参加し、無理やりに体験のアリバイ作りが行われている。

 それは海外である必要はない。日本の農山漁村で、あるいは自分や両親や祖父母にゆかりのある地域で、労働力不足に悩む農林水産業を手伝うこともできる。過疎・少子高齢化、集落や田舎の存続、空き家対策、農林水産業の低い生産性、1次産業の高年齢化や後継者不足、耕作放棄地の拡大、人工林の放置、森林の間伐不足、獣害、里山保全、竹林放逐、中心市街地商店街の衰退、独居老人のケア、買い物難民、住民サービスの低下など、山積する地域の課題に取り組む社会貢献体験はたくさんある。

 一流大学を卒業しても、専門学校を出ても、希望の仕事に就けるとは限らない。知識や技術があろうとも、コミュニケーション能力や人間関係構築能力がなければ、組織としてうまく機能しない。体験活動は、体験値に加えて人間力を高めることになる。大学も、専門学校も、都会の企業でのキャリア教育ではなく、何かに立ち向かい、社会に貢献するキャリア教育が求められている。学生の自主性も大事だが、教育は機会をつくることでもある。しっかりとカリキュラムに入れるべきである。体験は心にも、脳裏にも身に付くし、簡単に忘れることはない。

 一流の大学からキャリア官僚や大臣になっても、1年や数カ月前の出来事に「記憶にない」「聞いた覚えも見た覚えもない」などという人が大勢いる国家は危うい。もしそれが、知っているのに忘れたという虚偽答弁なら狂っている。

 地方において、高齢化が進み、人口減少が甚だしい地域などの山積する課題は、交付金や補助金で解決しないことも多い。ふるさとから都市に行った学生にも、田舎を持たない学生にも、志ある都市住民にも関わってもらって、地域の課題解決と地域振興につなげなければならない。その受け入れ態勢の整備が求められている。災害時などはもとより、日常でも地域には大変なことは多い。学校の教育も、企業のCSR(企業の社会的責任)も、田舎での社会貢献に向かうべきである。

 
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