【体験型観光が日本を変える301】彩豊かな日本の春 藤澤安良


 桜が満開になったところに桜吹雪ならぬほんものの雪が舞う光景があった。さらには、山桜のピンクが早い新緑に映える光景も珍しい。また、黄砂の合間からの黄色い太陽も珍しい。季節の移ろいが目まぐるしい。旅行業界的にはあまりにも早かった桜についていけなかったツアーも少なくない。

 一方で、3月末から4月上旬に訪れた訪日外国人は予定していなかった桜に感動していた。雪も花も四季の彩りが顕著な日本の売りでもある。植物の話については、4月から放映中の朝の連続テレビ小説の「らんまん」を見ていただいたほうがいい。

 植物分類学者の牧野富太郎博士の植物に生涯をかけた話が出生地の高知県を中心に展開されている。同時に、高知県では各地で植物を愛でるツアーやイベントが行われている。春らんまんの芽吹きと開花の高知県を訪ねてほしい。

 旅の醍醐味(だいごみ)はその時、その場所ならではの光景と体験である。それに加えて旅を豊かにするのは「食」である。自然を相手にした、光景や体験はストックができないが、冷凍・冷蔵技術、流通の発達は「食」を大きく変えた。

 東京ではお金を出せば世界中の多くのものが食べられる。お金があって時間がない人はそれでよい。チコちゃんではないが、私は知っている。鮮度と旬と調理方法がそろうのはやはり現場である。野菜、山菜、キノコ、タケノコは生産現場である。魚介類も船上とはいかないまでも漁港や港の市場である。それは、別物のように違いがある。

 旅の究極の醍醐味を「売り」とせずして何を売ろうとするのか。世界無形文化遺産の日本の食を守り、後世に伝え、観光と経済に結び付けなければ、農林水産業まで滅んでしまう。しかし、残念ながら旅館・ホテルの料理人に理念も意地も志もない者が多い。

 少し古いが、女性の料理の腕で男性の胃袋をつかむという表現があった。料理の腕で客の胃袋をつかんでこそ料理人である。従って、旬や鮮度や地産地消にこだわり抜いた食材探しと仕入れをすることから始めなければならない。

 食材納入業者任せで発注するだけで、生産現場に足を運ばないし、つながっていない料理人もどきもいかに多いことか。山奥でマグロやカニを出したり、努力もせずに数やサイズ合わせのために輸入冷凍業務用食材に頼ったりせずに、地域の代表選手だと思って地域振興も考え、行動しなければ田舎の未来は築けない。

 流通の問題もあるが、沖縄の離島ではすべてが郷土料理であり、地元の人も誇りを持って食べていたり旅客にも勧めてくれる。地元宴会までもそのようになってほしいが、百歩譲ってマグロもカニもいいことにしても、インバウンドを含む旅客には地域の食を提供してほしい。

 この春も多くのインバウンド客が訪れているが、首都圏・関西圏・東海圏・福岡・広島・札幌等の都市圏に集中している傾向が続いている。インバウンドの拡大は、そのまま都市から田舎への拡大を狙わなければ再びのオーバーツーリズムになりかねない。田舎の活性化は風景と体験と食にかかっている。

 
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