【体験型観光が日本を変える 86】自然体験の機会を 体験教育企画社長 藤澤安良


 猛暑のお盆だった。それは同時に戦後73年目の夏でもあった。当時兵隊として出兵し亡くなった若者の遺書や、結果的に遺書になってしまった手紙などを見聞きするたびに感心させられることがある。書き出しのほとんどが、父上母上様やお母さんなど、父母から始まっており、その内容もこの世に生を受け、育ててくれたことへの感謝と、死して悲しませることや健康への気遣いなどがほとんどであることだ。さらには、国のためと信じて命を投げうって戦った。

 今日では、国家国民のための省庁、学を修める大学、あるいは健全な心身を鍛えるスポーツ界での不祥事が相次いでいる。大学の合格を利権や金で買うなどの「売学」が存在していた驚きにも増して、人の命を預かる医者になるための大学入試で水増し加点したり、女性を減点したりの操作をしていたことが発覚した。男女平等の原則も人権も踏みにじられたとあっては、文部行政の根幹を揺るがすことになる。それに関与したのが監督官庁である文科省の上部官僚であったりした。他省の官僚でも忖度(そんたく)で記憶がなくなったり、文章が出てこなかったり、誰が考えても、国民を見ていないことは明らかである。

 一方、日本の主要産業の自動車業界でも、車の検査に不正があったと問題になっている会社が1社ではなく数社に及んでいる。人の命を乗せて運ぶ車の検査がなぜ必要なのか、分かっていないはずはない。お客ファーストではなく、自社・自己ファーストであったということになる。都民ファースト、選手ファーストなど、当然なことをあえて口にしなければならないのは、いずれも自分ファーストになっていることの証でもある。

 うれしいニュースも全国を駆け巡った。山口県周防大島で、やっと歩ける2歳の男児が行方不明となったが、無事に発見された。警察や消防の捜索マニュアルでもスキルでもなく、78歳にもなるボランティアの男性の人生経験と志の高さによって、まさに子どもファーストの思いが通じたのか、見失った場所より580メートルも離れた山中の沢で68時間ぶりに発見された。以前にも北海道で小学生が水だけで6日間も生きて発見されたことがある。いずれも、そんなに歩けるはずがないという大人の想像を覆しており、これが自然の中で生命力を発揮するということなのだろう。12日は御巣鷹山の520人の航空機事故の犠牲者の慰霊の日、15日は戦没者310万人の追悼式であり、人命の尊さを思い知らされる。

 一方で今年の夏も水難や山岳事故が相次いでいる。2016年の統計では水難事故死者だけでも1742人に及んでいる。自然は時に命を守ることにもなるが、その自然を甘く見れば命を奪われる。子ども時代の夏休みに山河を駆け巡った50歳以上と、電子ゲームに明け暮れた若い年代との、自然に対する体験値の差は歴然としており、またその子どもの年代も連鎖していく。自然体験をあらゆる機会に取り入れるべきである。

 
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