【体験型観光が日本を変える 83】復興へ社会貢献を 藤澤安良


 過日、広島空港から乗った航空機は瀬戸内海沿岸地域の上空を羽田に向かった。特に広島県から岡山県にかけては、先の西日本豪雨の被害が大きかった地域でもある。この時期の平野部は緑の稲が伸び盛りであるが、いまだ引かない水や土砂により広大な面積が茶色に覆われていた。

 人的な犠牲者は死者200人を超え、今なお行方不明者がおられる状況である。人的被害の他、家屋の流失、倒壊も多く、土石流による土砂や岩石の堆積量も家屋が埋まってしまうぐらいの量となり、茶色に覆われている所以でもある。

 米や野菜、ブドウ、モモ、柑橘類などの生産地にも甚大な被害が及んでいる。魚介類の養殖地でも、河川から大量の土砂を含む水が海に流れ出し、大打撃を受けている。農林水産業の被害総額は500億円を超え、農産物などの価格高騰や品薄が起こることになろう。

 復興に向けては、重機はもちろん、多くの人力が不可欠となる。大手旅行業界の多くが地域振興に関わる部署を持つ時代となった。さらには多くの国民の意識の中に、社会貢献やボランティア精神の重要性を理解する動きが拡大している。今回も多くのボランティアが現地に出向いている。しかし、交通や宿泊がかみ合わなかったり、折からの猛暑で熱中症になる人が続出したり、その善意や好意がうまく生かせていない。

 つまりは、現地に張り付き、被災地域のニーズを把握し、それらに必要な準備と対策を担うコーディネーター的な存在が必要である。求めている地域に周到な準備と心構えを持った人材を派遣できるような役割を誰かが担わなければならない。役に立ちたいと思う心と、実際に役立つことの齟齬(そご)が発生しかねない。その調整能力こそ人間力としてあらゆる場面で役に立つことになる。

 お互いに助け合う精神が存在しているであろう日本人のアイデンティティに火をともす機会でもある。夏休みの家族旅行でも、被災地で手助けができるなら、家族の絆や有り様を考える機会となる。社会性を身につけるためにも、18歳に選挙権が降りてきたのに45%台に低迷する投票率を上げる主権者教育の一環として有効な手立てとなる。行政職員としても防災対策の視点を醸成するため、現場に何が起こって何が必要なのかを学ぶべき機会となる。企業にとってもCSRを実践する機会となる。

 コンビニには物があふれ、水道の蛇口をひねれば水が出てきて、ボタン一つで明かりも冷暖房も動くが、流通が止まり、停電、断水が起これば人間の無力さを気づかされる。旅行業界は、家族の存在も含め、当たり前にあるものの有り難さを知る機会をつくる役割をかってでるべきであろう。これから物理的な復興までの間、国民の思いと被災地の願いをつなぐ、被災地復興ボランティアツアーの造成にまい進すべきである。まずは自社関連グループから始めることだ。社会の豊かさの上に旅がある。そして、豊かさを求める旅もある。自らが社会貢献の範となるべきである。

 
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