【令和時代における交通インフラの人材採用21】バス運転の覚悟 女性バス運転手協会代表理事 中嶋美恵


 中国・武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎に、奈良県在住のバス運転手が日本国内で感染していたという衝撃的なニュースが飛び込んできました。この記事を書いている時点では詳細は判明していませんが、武漢から来日した中国人観光客を乗せたバスを運転する、東京―大阪間の行程中に感染したようです。まだ調査段階ではあるものの、空気感染の可能性は低く、飛沫感染であるとすると、バス車内の手すりに触れた時や、スーツケースの積み下ろし時に接触したのではないかと推測されています。

 この件を受けて、国内のバス会社は、これまで以上に感染症対策を強化し始めています。運転手のマスク着用義務化、車内に乗客も使用できるアルコール消毒液やマスクの設置、営業所内での手洗い、うがいの徹底など感染を防ぐためのさまざまな対策を講じています。

 先日、武漢からの帰国者を乗せた日本政府のチャーター機が羽田空港に到着し、バスで宿舎へ送り届けられました。都内の著名なバス会社がその役割を引き受けていますが、私はその様子をテレビを通して見た際、目頭に熱いものが込み上げてきました。どのようなルートでこれらのバス会社に今回のお仕事が依頼されたのかは存じ上げませんが、この仕事を引き受けるのは、非常に勇気がいることだったと思います。

 私も小さな会社を経営しているわけですが、自分ならこの状況下で、果たして快諾できただろうか。お客さまや社員、その家族のこと、その後の事業のことを考えると、簡単に答えを出すことはできなかっただろうと思います。

 また、当日ハンドルを握った運転手も同様です。会社から乗務指示を受けた時、自分がその運転手だったら「やります」と即答できるでしょうか。正直、恐いと思います。しかし、プロであることの使命感が、その勇気ある決断を後押ししたのではないでしょうか。私はこれらのバス会社にも、当日乗務した運転手にも敬意を払います。まさに日本を支える素晴らしい公共インフラである、「バス」ならではの功績だと、拍手を送りたいです。

 帰国者受け入れ先のホテルもそうですが、この世界的危機に運輸業界、観光業界は多大なる貢献をしているといえます。

 一日も早くこの状況が終息することを祈るばかりです。

 (リッツMC代表取締役社長兼女性バス運転手協会代表理事)

 
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