今回から交通トレンド分析の連載を担当する鳥海です。訪日需要が旺盛な中で交通がもたらす観光、宿泊への影響や問題点について論じていきたいと思います。
この数年のインバウンド需要の中で特に伸びているのがタイだ。2013年7月にビザが緩和され観光目的であればビザなしでの日本入国が可能となったことも増加傾向にあるが、この数年、日本とタイを結ぶLCC(格安航空会社)の便が急増したことも後押ししている。
取材を進めていると、ANAやJALなどは日本人・タイ人の両方が多く搭乗しているのに対し、LCCでは圧倒的にタイ人を含めてアジアからの利用者が多い。日本―タイでLCCとして最多便数を誇るエアアジアグループであるタイ・エアアジアXは、8~9割がタイからの訪日旅行客が占めている。
タイ・エアアジアXにおいては、インバウンドにおける送客効果は大きい。その理由が、日本国内のLCCではエアバスA320型機が中心で180席程度であるのに対し、タイ・エアアジアXは大型のエアバスA330型機を投入している。
座席数は377で通常のLCC便の2倍の人を運ぶ。それでいて、成田―バンコク線だけでも1日3往復しており、搭乗率も9割以上を確保している。加えて関西からも2往復、さらに中部や新千歳にも就航しているほか、今年7月からは福岡にも就航する。
タイ・エアアジアXだけでもかなりのLCCネットワークがあるが、加えて、シンガポール航空グループのスクート(スクート、ノックスクート)も成田や関西からのバンコク線を積極的に増やしているほか、日本人には聞き慣れないタイ・ライオンエアも成田、関西、中部、福岡に就航している。
どの会社も中型機や大型機を投入している。また2020年春にはJALが設立したLCCのZIPAIRもボーイング787型機を使って成田―バンコク線に就航することが発表されている。LCC便の場合はセール販売時には片道1万円程度で購入できることも追い風となっており、タイから訪れるリピーター客が増えていることも大きい。
これだけLCCが多くの路線を持っていてもフルサービスキャリアのANA、JAL、タイ国際航空も負けていない。ANAは羽田、成田合わせてバンコク便を1日5往復、JALは3往復、タイ国際航空も5往復を運航しており、3社ともに搭乗率も好調である。ビジネス渡航者やサービスを求める旅行者はフルサービスキャリア、安さを求める観光客はLCCを積極的に利用するなど、セグメントがしっかり分けられており、まだまだ今後も伸びが期待できそうだ。
(航空・旅行アナリスト)