
ホストファミリーと顔合わせ
横浜市南区に校舎を構える横浜市立共進中学校(西田寛校長)は、1947年に創立。みなとみらい地区や元町・中華街等、にぎわいを見せる都心部に隣接し、そのような立地の特性から国際色豊かな学校としても知られている。自ら学び、共に進む「自学共進」を教育目標に掲げ、自他共に大切にし、主体的に学び合う生徒の育成に力を入れる。
同校では毎年、特別活動として学年ごとにさまざまな地域に足を運び、1年次に山梨での自然研修、2年次に東京方面または鎌倉への遠足を実施。集大成となる3年次の修学旅行に向けて、生徒自ら課題を設定し、探求することで、着実に学びを深めてきた。
修学旅行の目的は、「地域の伝統文化・暮らしを学び、知見を広げる」という異文化体験にある。同校がある横浜は交通の利便性が高く、欲しい物も簡単に手に入るような地。だからこそ、横浜での普段の生活では味わえないような体験や人との出会いを通して知見を広め、豊かな人間力を育んでほしいという思いを込めた。加えて、自身の興味関心の開拓や対人スキルの向上など、キャリア教育の要素も持ち合わせている。
これらの目的を存分に発揮できるとして毎年修学旅行に取り入れているのが、「民泊体験」だ。従来は京都・山城地域で行っていたが、今回はコーディネーターの大和飛鳥ニューツーリズムの協力のもと、充実した受け入れ体制が整っている奈良・飛鳥地域を滞在先に選んだ。
事前学習は2年生時からスタート。(1)飛鳥地域(2)奈良(3)京都―の3地域から歴史、観光産業、文化、食など自分なりに興味を持ったテーマを設定し下調べを行った。どういう場所に行くのか、地域のイメージを自分で膨らませたほか、疑問点を書き出し、現地で答えを探った。
今年の修学旅行は、6月9~11日(2泊3日)に奈良・京都で実施。3年生149人が参加した。1日目の飛鳥地域到着後から2日目の午前まで民泊体験を行った後、午後からは奈良公園での班別行動を実施。3日目はバスで京都に入り、清水寺、南禅寺などの観光地をクラスごとに回った後、横浜に帰着した。
民泊体験は1家庭につき生徒3~5人が宿泊。飛鳥地域のシンボル「石舞台古墳」がある公園での入村式から始まり、ホストファミリーとの顔合わせ後、各家庭に向かった。宿泊先は一般家庭から民宿を営む家庭まで多岐に渡り、「短い時間だからこそ、しっかり子どもたちと向き合いたい」というホストファミリーの要望のもと、教員の見回りは最小限。ホストファミリーがガイド役を務め、キトラ古墳や高松塚古墳を巡る史跡ツアーや、着物工房での着付け体験、飛鳥川でのアブラハヤ釣りなどを一緒に楽しんだ。
民泊の醍醐味(だいごみ)の一つ、家業体験では、大和野菜を牛乳ベースのだしで煮込んだ飛鳥地域の名物料理「飛鳥鍋」を作って食文化を体験したほか、焼きそば、プリンなど生徒の好物を協力しながら作った。生徒の柔軟性の高さやホストファミリーの温かい受け入れ姿勢によりすぐに解け合い、地域の人々との直接的な交流を通じてその地域特有の文化や風習、日常生活に触れることで、新しい視点や価値観を得た刺激的な民泊体験となった。
2日目の午後、3日目に実施した奈良・京都での散策は、単なる物見遊山の観光で終わらせるのではなく、事前に設定したテーマをもとに班ごとに効率よく回り、多くの気付きや発見を得ることができた。
事後学習は、総合学習の授業で実施。現地で何を体験したのか、何を学んだのかを生徒自身の言葉で新聞にまとめ、授業参観の席で保護者に発表した。国語の授業で制作した壁新聞には、「インターネットだけでは全てを知ることはできないと思った」「所変われば品変わるということを実感した」など、思い思いの言葉が寄せられた。
修学旅行を終え、学年主任として引率した轡田(くつわだ)雄介教諭は、「何より奈良・京都の地を自分たちの足で回って各地域の理解を深められたことが大きかった」と振り返る。普段身を置かないような生活環境の中で、人の温かみに触れながら、地域特有の文化や暮らしを学ぶ。多くの経験によってまた一つ、成長を得られたようだ。
修学旅行の実施時期は、依頼先も繁忙期になりやすい上、特に民泊体験は食物アレルギーや衛生面など確認事項も多い。「だからこそ、旅行会社やコーディネーター(大和飛鳥ニューツーリズム)との密な連携は不可欠」と轡田教諭は強調する。来年につなげることとして、「実施時期は梅雨で、当日も雨が降っていたことから、民泊体験の活動が制限された。天候に左右されない代替策を用意できれば」「飛鳥地域は想像以上に広く、生徒の宿泊先が点在していたため移動に時間がかかった。けが無く終えられたことは幸いだが、万が一の事態にいつでも駆け付けられるよう、安全対応策を練りたい」と話している。