【一寸先は旅 人 宿 街 6】起爆剤になるか、大阪万博 神崎公一


 「万博よりディズニーランドに行きたかったな。あっちの方が面白いはずよ」。前を歩く女子高校生グループが不満げにしゃべっていた。1985年7月、強い日差しが照り付ける茨城県筑波学園都市で開催中のつくば科学万博会場地でのことだった。

 筆者は新聞の駆け出し記者として、万博会場の取材センターに開幕から閉幕までの約半年間、詰めていた。毎日のように会場を歩き回り、国内外のパビリオン関係者や来場者の声を聞いたり、写真を撮影したりの繰り返しだった。まだベルリンの壁やソ連が崩壊していない時期なので、共産主義国家の出展関係者が亡命するのではないかとの警戒も必要だった。

 また、会場内のレストランの客の入りが悪いのは来場動線が悪いのが一因だとの飲食物販関係者から不満が出るなど、華やかな万博の舞台裏ではニュースになりそうなやり取りが繰り広げられていた。

 あれから40年後、大阪万博が2025年4月に開かれる。大阪府などの自治体や関西経済界が期待を膨らませている。想定来場者数、約2820万人、約2兆円(推定値)の経済波及効果が見込まれるからだ。

 新型コロナウイルス感染症で腰を折られたインバウンドの復活にも大阪万博が追い風となるのでは、関西復権にもつながるのではといわれている。東京オリンピック・パラリンピック2020は残念ながら1年延期を余儀なくされた上に、外国人観客なしでの開催だった。それだけに大阪万博は国内外の来場者でにぎわう一大イベントとしたいと願うのは無理もない。

 こうした話に水を差すわけではない。しかし、冒頭の女子高校生から漏れたひと言が物語っているように、40年近く前でもエンターテインメント性に富んだ東京ディズニーランドのような優れたテーマパークに万博が負けそうな勢いであったことは、否めない事実だ。ディズニーという誰もがなじみのあるキャラクターが迎えてくれる非日常のおとぎの国の計算しつくされた魅力は絶大だったからだ。

 時代は移り変わり、東京ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンのようなリアルな施設どうしの激烈な客の奪い合いに加え、インターネットという強敵の存在を無視するわけにはいかない。ネット空間で、海外体験も未来体験もできる。SNSでは現地のリアルな情景に浸ることも簡単だ。コロナ禍で移動制限があった時でも、オンライン旅行で旅情を味わえた。

 話が前後するが、1970年に同じ大阪で開催された万博は、今と比べて全国民の強い関心を呼び、約6421万人が足を運んだ。宇宙船が持ち帰った「月の石」を展示したアメリカ館などは長蛇の列だった。中学生だった筆者にとっても万博会場で見るもの聞くもの、そして外国の食品やファッションも実に新鮮で、感動したことを思い出す。海外旅行がいまほど盛んではく、パソコンやスマホによって簡単に情報が得られるインターネットの登場はまだだいぶ時間がたってからのことだ。

 国を挙げての大きなイベントを否定するつもりは全くない。また、こうしたイベントが国内外からの観客を集める大きな武器になることも十分ありうる。来場者が再びイベント開催地を訪れ、周辺観光地も巡ってみたいという機運が盛り上がればうれしい。

 ちょっと的外れかもしれないが、紅白歌合戦を家族そろって楽しむ時代ではなくなったように、国民的関心事が少なくなっている。コロナ禍が完全に終息が見込めないことや物価高による暮らしの不安などで、重苦しい空気が漂っている。大阪万博開催までにはまだ2年半ほどあるので、これからが勝負だ。前回の大阪万博時の「万博、行ってみた? 感動したよね」というような会話があちこちで交わされるように盛り上がってほしい。

(日本旅行作家協会理事、元旅行読売出版社社長)

     

 
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