【一寸先は旅 人 宿 街 4】シニア旅、でも腰が膝が… 神崎公一

  • 2022年8月14日

 「あなた、階段だわ」。キャリーバッグを持った60代後半とみられる女性が上り階段を見上げてため息をついた。膝がわるいらしい。夫と思しき男性もボストンバッグを携えており、手伝うわけにはいかない。居合わせた筆者も荷物があり、手を差し伸べたい気持ちはヤマヤマなのだが、そうもいかない。

 人気の観光列車「リゾートしらかみ」が到着した青森県のJR五能線・五所川原駅での1コマだ。ホームから階段を上り、跨線橋を渡って改札に向かうには、下り階段を使わなくてはならない。五所川原駅から津軽鉄道に乗り換え、太宰治の斜陽館のある津軽鉄道の金木駅は跨線橋がない代わりに、ホームから数段降りて、線路を渡って反対側のホームに上ってディーゼルカーに乗った。

 海岸美が素晴らしいと人気のJR五能線。筆者が訪れた時期はJR東日本の会員サービスの一つ、大人の休日倶楽部パスの適用期間だったため、旅行好きのミドル、シニアが多数繰り出していた。

 大人の休日倶楽部は男女とも50歳以上から入会できる。今回利用したのはJR東管内の路線に連続4日間、乗り放題のサービスだ。料金は1万5270円で、新幹線、在来線特急などの指定席を6回まで予約できる。筆者は、東京から秋田駅経由、五所川原、そして新青森まで行き、東京に戻った。運賃は指定席代を含め、通常は全行程で4万1150円だから、とても得した気分になる。

 この期間中、駅売店などでは休日倶楽部パス提示で駅弁や飲み物、土産物が割り引きされる特典も実施していた。シニア層は旅行消費において、確実なターゲットだからだ。宿泊施設で尋ねたところ、休日倶楽部パスの適用期間中は、旅館、ホテルも予約でいっぱいになるという。

 さて、冒頭に戻る。筆者を含め、東京や大阪などの駅では、JR、私鉄、地下鉄を問わず、エレベーター、エスカレーターを利用することが当たり前で、階段を使うのは急ぎの時か、思い出したように健康を意識した時以外にはない。しかし、今回の旅で分かったように、全国の駅では、まだこうした設備がないケースが多い。

 国交省によると、2021年3月末現在で、エスカレーター、エレベーターなど段差解消設備が設置されているのは、1日3千人以上が利用する駅の95%に当たる3090駅に達している。同省は整備率の拡大を目指している。しかし、これは乗降客が多い駅が対象だろう。

 JR東日本は7月末、利用者の少ないローカル線の区間別の収支を初めて公表した。公表データを見る限り、乗降客が少ないローカル線は、設備投資以前の問題として、廃線の危機さえある。コロナ禍のはるか以前から都市部を中心に通勤・通学客が減少し、1990年代初めにピークを迎えていた。そのため、都市部での利益でローカル線を維持するのも難しくなっている。

 今に始まったことではないが、地方ではマイカーによる利用者減が続いている。山陰地方の第三セクター鉄道の幹部の嘆きが印象に残っている。「高校卒業と同時に鉄道も卒業する」。高3の春休みに運転免許を取って、クルマに乗り始めるからだ。

 これに対する増収策の一つが観光客の利用増。大人の休日倶楽部パスをはじめとし、お得な周遊券、話題性に富むラッピング電車、特色のある豪華列車、レストラン列車などが相次いで登場している。そして、これらの企画切符や観光列車などのメインターゲットはシニア層である。時間的にも経済的にも余裕があることから、鉄道に乗って旅情を満喫したい。でも腰が、膝が……。筆者にとっても深刻な問題になりつつある。

 (日本旅行作家協会理事、元旅行読売出版社社長)
      

 
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