【マンスリーリポート 観光の現場 36】新型コロナ 生産性向上の契機に

  • 2020年4月3日

日本旅館協会の生産性向上に関するセミナー

旅館業、品質アップと効率化 両立

 新型コロナウイルスの影響で宿泊業の経営が厳しい。当面の資金繰りや雇用を安定させ、需要の落ち込みを最小限に抑えつつ、感染症の終息に期待するしかない。苦境の最中だが、今後の経営を考える契機とする必要もある。旅館業では近年、生産性向上が重視され、好事例が増え、業界内でノウハウの共有が進みつつある。このリポートでは、日本旅館協会の生産性向上セミナーから経営改善のヒントを探りたい。

 日本旅館協会は2月20日、旅館・ホテルの生産性向上に関するセミナーを千葉市の幕張メッセで開いた。現場の作業効率の改善とサービス・商品の品質向上に取り組む旅館が生産性向上の考え方や実践例を発表した。 無駄排除で接客強化

 福井県・あわら温泉の115室の旅館、グランディア芳泉の山口賢司代表取締役専務は、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏が講師を務めた観光庁のオンライン講座などに学び、従業員1人・1時間当たりの生産性を示す人時生産性「売上粗利益÷総労働時間」などを指標に生産性向上に取り組んだ。

 生産性向上の考え方として山口氏は「作業量、労働時間を減らしながら、品質、顧客満足度を上げることは可能」と述べた。お客さまが求めていない無駄な作業を洗い出して削減し、必要な業務はマルチスキル化、IT化などで作業効率を上げる。削減、効率化した分、接客時間を増やし、個々の要望にきめ細かく対応するなど、本来お客さまが求めているサービスに徹して品質を向上させる。

 改善事例では、食事会場での夕食について、来場時間をお客さまの任意にし、時間帯別の2部制や事前の席割り・セッティングを廃止した。厨房を客席近くに変更し、料理を作り置きせず、POSシステムで客席ごとの食事の進捗(しんちょく)に合わせて提供する方式に変えた。無駄な準備を減らし、お客さまが求めるタイミングで出来たての料理を提供し、急な要望にも対応しやすくした。

 宴会設営などの業務では、マニュアルの作成などによる業務の標準化、食器保管の「3定」(定品、定位置、定量)などを実践。宴会係以外の部署のスタッフでも後方業務を担当できるようマルチスキル化を進め、宴会係が接客サービスに専念できる態勢を整えた。

 山口氏は「生産性向上に取り組んだ結果、週休2日制が導入でき、給与も引き上げることができた。旅館の仕事はやはり人材。スタッフはお客さまのための仕事がしたくて旅館で働くのだから、モチベーションが上がるよう改革に取り組むべき」と訴えた。全社員で改善活動

 滋賀県・おごと温泉の湯元舘(69室)は、グループ旅館を含めて社員を挙げて生産性向上に取り組む。上田文雄取締役営業部長は「大切なのは『経営を科学する』こと。数字に基づく客観性、誰もがいつでも実践できる再現性を重視している。そして生産性向上は一部の経営幹部だけではできない」と指摘した。

 大規模な設備投資を伴う機械化やIT化は経営層、部署ごとの業務改革は部長や課長など幹部社員の役割として推進。現場の社員については、「社員は会社に貢献したいと思っている」との考え方に立ち、個々に実践した業務改善を社員が提出する「改善メモ」の活動を定着させ、貢献を評価するなど、社員が活躍できる環境づくりを進めた。外国人で生産性向上

 岩手県・鶯宿温泉の長栄館(65室)は、インターンシップを含め、フランス、ベトナム、中国、台湾の外国人8人を雇用している。照井貴博代表取締役社長は「生産性向上にはいろいろな手法があるが、外国人スタッフの採用を通じた切り口もある。デスクワーク業務を外国人スタッフに任せ、日本人スタッフを接客の現場に充てるようにしている」と紹介した。

 事務所にある12のデスクのうち七つのデスクは外国人が使っている。外国人スタッフをデスクワークに活用できるよう、出金・入金伝票などを廃止し、PMS(宿泊業向けの基幹管理システム)の帳票から財務ソフトへの直接入力に変更するなど、業務のIT化などを進めた。人材開発を刷新

 長野県・上諏訪温泉のRAKO華乃井ホテル(155室)は、グループ入りした旅館を含めて宿泊・観光施設4施設の販売促進と総合予約センターを担う新会社を18年4月に立ち上げ、業務の集約、改善を図った。施設ごとに異なっている予約システムの一本化、人事制度や就業規則の統一にも取り組んでいる。

 深刻化する人手不足への対策にも乗り出した。製造業で人事を専門にしてきた経験者を人材開発室長に起用した。女将の白鳥和美氏は「これまでは私がスタッフの採用、教育を担当してきたが、これを手放し、外部のプロを活用した。2年目になるが、順調に成果を上げている」と報告した。

◇   ◇

 政府はサービス産業の生産性向上を重視し、施策を強化している。観光庁は、宿泊業の生産性向上に関する事業を毎年度実施し、これまでの成果として、さまざまな規模の旅館・ホテルの具体的な改善例を事例集にまとめ、ウェブサイト(http://www.shukuhaku-kaizen.com/)で紹介している。

 新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、政府は緊急対応策(第2弾)の「観光業への対応」の中で、「感染防止に取り組む期間を積極的な『助走期間』と位置づけ、将来の反転攻勢のための基盤を整備する」と明記した。中小企業を対象とした生産性革命事業の各種補助事業を経済産業省、中小企業庁などのホームページで周知し、活用を呼び掛けている。

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