【マンスリーリポート 観光の現場 流れを読む13】旅館、人手不足にあの手この手


奇麗な客室を維持するには人手の確保が欠かせない(写真と本文は関係ありません)

 観光業界の人手不足感が強まっている。不規則な時間帯の勤務、肉体面の負荷などを理由に、敬遠する人が少なくない。このままでは業務に支障を来すとして、人手確保に奔走している。プロジェクトの始動や雇用環境の改善など、あの手この手を駆使する旅館業界の人手確保策を追った。

 7月19日、兵庫県庁で「旅館の魅力を伝え隊」の委嘱式が行われた。県内の温泉地で働く20~30代の男女5人が井戸敏三知事から委嘱状を受け取り、旅館の働きがいを多くの人にアピール、人手確保に貢献することを誓った。

 外国人旅行者の増加などで県内の宿泊需要は高まっているが、旅館・ホテルの働き手が足りず、客を断っているケースも出ているという。

 伝え隊事業は、旅館・ホテルの人手不足を解消するために県が今年度から始めた新しい取り組み。実際に働いている人に“表”に出てもらい、旅館・ホテルのやりがいや魅力を伝えてもらおうと企画した。5人は有馬や城崎など主要温泉地の旅館組合から推薦された若手スタッフだ。

 同25日、大阪市の梅田スカイビルで合同企業説明会が開かれた。会場には「兵庫県温泉旅館特別ブース」が設けられ、ホテルニューアワジや有馬グランドホテル・中の坊瑞苑など11軒が出展。伝え隊隊員も参加し、就活生に旅館で働くことの面白さを熱心に訴えた。

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 国内外を問わず、多くの人が訪れる京都。最近はあまりの観光客の多さに、市民生活にまで影響が出ているという。旅館・ホテルの忙しさも想像に難くない。

 京都市は「宿泊業における雇用の安定に向けた調査研究」に着手し、昨年夏、初めて市内の旅館・ホテルにアンケートを実施した。74軒(うち旅館40軒)の経営者と従業員1047人から回答を得た。

 それによると、全体の52・7%で正規従業員が不足し、62・2%で不正規従業員が不足していることが分かった。不足業種は「清掃など」が51・9%と最も多く、「客室係など」46・3%、「調理」35・2%など多岐にわたっている。

 ちなみに、外国人を雇用している旅館は、大規模60%、中規模34・8%で、小規模での雇用はなかった。

 こうした状況を改善しようと、行政も支援措置を講じ始めた。京都府と公益財団法人京都産業21は今年度、「旅館等受入環境整備補助金」を創設し、社員寮建設など従業員が働きやすい環境づくりに努め、正社員を増やした旅館・ホテルに対し、経費の15%以内(上限150万円以内)を補助することにした。

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 石川県加賀市を代表する温泉地の一つ、山代温泉で話題となっているのが「ホテル百万石」再開の動きだ。名門旅館の復活は地域経済にとって明るいニュースといえるが、「労働力の奪い合いが起こるのでは」との見方もあり、旅館関係者は戦々恐々だ。

 7月下旬、地元紙は百万石が来年末にも高級旅館としてオープンする見通し、と報じた。百万石は2012年に休業したが、当時の客室は約180室で、山代の中でも最大規模を誇っていた。新・百万石の規模は明らかではないが、相当数の従業員を抱えそうだ。それをどこから持ってくるのか。地元旅館の大きな関心事だ。

 山代温泉観光協会の萬谷正幸会長は本紙の取材に対し、「大きな話題であり、誘客の追い風となりそうで、地域経済にとっては朗報」と歓迎するが、「人(従業員)の引き抜きが心配だ。それでなくても業界は人手不足。どんな影響が出てくるのか不安もある」と心情を吐露する。

 いずれにしろ人手不足は避けては通れない。そこで加賀市と一般社団法人加賀市観光交流機構は、人材支援事業を手掛ける横浜市のアドヴァンテージ社と連携し、温泉旅館雇用促進プロジェクト「KAGAルート」を開始した。

 地方創生推進交付金を活用し、旅館・ホテルの就労環境改善や雇用創出に向けた取り組みを行うもので、具体的には加賀温泉郷専用の求人サイト開設や合同就職イベントの実施、採用強化に向けた勉強会・研修会の開催などを実施する予定だ。

 
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