【ポスト・コロナ時代に向けた宿泊施設の取り組み52】世界のワクチン接種状況と日本の回復シナリオ 2 北村剛史

  • 2021年6月10日

北村

北村氏

 ワクチン接種も世界規模で進み、その後の新たなマーケットにおける宿泊施設が求められるであろう新戦略について、現状の状況を前提にして整理するタイミングにきたと考えられます。前回もご紹介いたしましたが、世界では4月27日を新規感染者数ピークにし、その後減少に転じています。4月27日時点での世界のワクチン接種回数は100人当りで約13.2回でした。最速で接種が進められたイスラエルでは同26.8回という水準で大きく減少に転じています。特にmRNAワクチンは、英国変異株だけではなく、日本国内でも調査研究が進み、特に東アジアの人々が多く保有する免疫機構を回避することが懸念されていましたインド変異株(B.1.617)にも高い効果が示されました。ようやく我が国観光宿泊産業にとりまして新たなステージに入ったと言えそうです。

 まず、宿泊業界の皆様には、正確な情報を得ていただきつつ、新たなマーケットに向けた対応策の構築をご検討いただければと思います。正確な情報については、今回のワクチンが急ごしらえで開発されたものはなく、2002年のSARS危機から研究が重ねられた結果、それらの集大成で今回のパンデミック時において提供できるタイミングであったということ、またmRNAワクチンは、宿主細胞内の細胞核には入らないことから、ヒトDNAの改変は今のところ考えられないという点、副作用については、国内2021年5月26日時点で、国際基準に基づくアナフィラキシーは146件であり、接種10万回当り2.4件と報告されました。厚生労働省によると海外の新型コロナウイルスワクチン接種後のアナフィラキシーは10万人から30万人に1人と報告されており、海外でのインフルエンザワクチンによるアナフィラキシーは10万回当り約0.13件であることから、確かに他のワクチンよりもアナフィラキシー頻度が高いと言えそうです。ですが一方で、新型コロナウイルスの細胞内での振る舞いは以下のとおり非常に大きな脅威になっていることも知っておくべきです。例えば、最近の研究報告では、感染により一部のヒト細胞等を非自己として認識する自己抗体が高い頻度で存在し、またこれら自己抗体が免疫受容体のシグナル伝達を阻害する等との報告がある他、体内の様々なネットワーク制御調整に関連するリン酸化機構の多くがこのウイルスに利用されている可能性も指摘されています。さらには新型コロナウイルスのRNAが一部感染細胞核内のヒトDNAに組み込まれ(逆転写され)、ウイルス配列と細胞配列が融合した異質同体のゲノム配列を引き起こすことも報告されています(キメラ転写物と言う。)。そこからさらに新たなウイルスが再生されることはないようですが、長期後遺症の原因の一つではないかと注目されています。今回のウイルスの脅威は、そもそも多様な感染機構や感染力増強機構を有すること、変異を繰り返すことで自然淘汰を介した変異株の強化をもたらしていること、さらには上記のような望ましくない体内作用を多く引き起こしてもいるのです。何としても最大限防御するべき大敵であるという事実です。

 1年以上にわたりこれだけの経験を経たわけですから、以前と同じマーケットはもうないと考えた方が的確だと思います。今後回復時のマーケットはこれまでのマーケットと異なる新たな市場である可能性があります。箇条書きで整理しますと、概ね以下のとおりとなります。

 ・今回の感染症パンデミックの完全な終息は相当時間がかかるであろうと予想されること、さらに今後の新たな感染症懸念材料があること(温室効果ガスであるCO2を含む海水は温度が上昇するとさらにCO2を放出し、一層地球を温暖化する結果、多くの未知のウイルスを含む氷山等から眠ったウイルスを呼び起こす等)を背景に、今後も正確な感染症拡大防止対策の継続が求められるはずです。

 ・人流増に伴う感染リスクが人々に恐怖心を根付かせた結果、大規模集中型観光から小規模分散型へシフトするであろうと考えられること。それはつまり、自社の「価値」を明確にし認識し、それを顧客に伝え且つ体験してもらい、ファンを作りリピーターを重視する運営がこれまで以上に求められるはずです。

 ・ヒトがボーダレスに経済合理性を追求した結果、生物多様性や自然生態系を歪めた結果、感染症脅威が出現したとも考えられます。今後、一層、自然環境保全や生物多様性の尊重、地産品利用や地域住民雇用、地域と一体となる取り組みが重視されるはずです。

 ・1年以上、パンデミックの間、消費より貯蓄が優先された結果、これまで同様にラグジュアリーマーケットは存在しているはずです。それらマーケットへの訴求策も改めて重要な取り組みとなるはずです。

 ・インバウンド市場に偏向した運営から、国内需要とのバランスが改めて求められます。

 ・人口動態からは出生率の低下が懸念されています。一方で、国内を見ても、年齢構成別感染者数を見ますと、若年層が増加し、高齢者は低下傾向を示しています。おそらく世界的にも同様で、将来的にバリアフリーはもちろん、サービス面でも十分なケアができるハートフルなサービス提供が一層求められるものと考えられます。

 上記を俯瞰しますと、「点」としての取り組みではいずれも十分な対応が困難です。地域内において、「点」としての個々の取り組みが「面」としての地域全体での取り組みとして昇華し、顧客の安全安心を支える観光地域造りこそが今後求められているのではないでしょうか。

一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
㈱サクラクオリティマネジメント 代表取締役
㈱日本ホテルアプレイザル 取締役
不動産鑑定士,MAI,CRE,FRICS 北村 剛史

 
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