前回は、ウイルスと人類とのあるべき関係や、今後求められる取り組みを、①自然生態系及び生命多様性を重視すること、②バリアフリーをはじめハートフルサービスを重視すること、③正確な感染症対策の継続と知識の輪を地域に広めることとして整理しました。今回のコロナ禍は、人類のウイルス研究を急加速させ、今後の防衛力を大幅に引き上げたとも捉えることができます。今回は上記③について少し詳しく見てみたいと思います。
まず、現在日本が戦っているウイルス変異株について再度確認しておきましょう。2019年に確認されたウイルスから既に多くの変異株が生じています。新型コロナウイルスの変異株とは、29,903個のアデニン(A)、グアニン(G)、ウラシル(U)、シトシン(C)の4種類の塩基が糖にくっつき、それらが3つの「コドン」という単位で1つのアミノ酸に置き換わります。アミノ酸は人体では合計20種類あり、それらが複数複合重層的に連なり一つの機能を有する単位となってタンパク質として合成されます。それらがリン酸で結合し連なったRNAという遺伝子構造を持っており、その塩基が宿主細胞(しゅくしゅ)で復元される際に、コピーエラーを容易に起こす結果生じています。日本にける第2波から第3波では、ベースにD614Gという変異部分を有するB.1.1.214、B.1.1.284という名称の変異株が中心となっていました。その後、2021年4月に入り関西圏では英国由来のN501Yという変異株、首都圏ではE484Kという変異株に置き換わり、2021年4月下旬には、全国でN501Yが凄まじい勢いで勢力を広げています。N501Yとはどのような変異か知っておきましょう。宿主細胞と接着面を有するスパイクタンパク質の501番目のアミノ酸について、3つの塩基の中一部が変異し、その結果アスパラギン(N)からチロシン(Y)に変化したという意味です。アスパラギンは、中性つまり酸性、アルカリ性(塩基性)に大きな偏りがありません。そのアスパラギンが、チロシンに変化したというわけです。新型コロナウイルスと感染のきっかけとなるヒト受容体との結合時に、スパイクタンパク質を構成する特定のアミノ酸残基(453番目のチロシン)と新型コロナウイルスのヒト受容体の特定のアミノ酸残基(34番目のヒスチジン)が結合することが知られており、今回の501番目のアスパラギンのチロシン化も感染力強化に関係している可能性も考えられます。
このチロシンは、先端に他の分子と結合しやすい酸素Oと水素Hを有しています(ヒドロキシ基(OH)と言う。)。この構造が、宿主細胞内にあるリン酸(宿主細胞内の遺伝子は塩基と糖とリン酸が結合し、リン酸同士が連なって結合している。)を引き寄せる酵素を活性化してチロシンのリン酸化を誘導しています。ちなみにこのタンパク質のリン酸化とは、タンパク質の立体構造を変化させてタンパク質の活性と性質を変化させており、細胞の情報伝達、制御等を司る非常に重要な反応です。新型コロナウイルスは人体内で多くのリン酸化酵素をハイジャックしていると言われているのです。新型コロナウイルス感染後24時間以内に518個のリン酸化酵素のうち97個の酵素の活性化が確認されています。また、リン酸化酵素はタンパク質合成、細胞分裂、シグナル伝達、細胞増殖、発生及び老化を含む細胞プロセスに極めて重要であり、新型コロナウイルスはタンパク質のリン酸化を通じて、複製と増殖に利用しやすいよう宿主の機能を改変しているのです。それらリン酸化酵素の発現は、免疫力に影響する他、リン酸化酵素を含む宿主細胞の形態を変化せ、細胞にウイルスを含む触手を形成します。その触手が細胞内で成長し、異常な速さで木の枝のようなユニークな形を持つ触手になることが報告されています。まるでホラー映画の1シーンのように、この触手は近くの細胞に穴を開けウイルスが新しい細胞に感染しやすくしていると言われているのです。接点にあるアミノ酸501番目のチロシン化は、上記のような意味で不気味な存在です。今回のウイルスは、風邪ではないことがそこからもうかがい知れます。特に地域と観光の接点となる宿泊業界こそ、徹底してヒト受容体とウイルスの接点を断つことが求めれます。
一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
㈱サクラクオリティマネジメント 代表取締役
㈱日本ホテルアプレイザル 取締役
不動産鑑定士,MAI,CRE,FRICS 北村 剛史