
北村氏
これまでの新型コロナウイルス感染症の存在が前提ではない時代において構築された様々な制度上存在してきた宿泊施設にとって、今回の新型コロナウイルス感染症は、短期間のうちに宿泊施設がこれまで有しきた様々な「強み」を「弱み」へと変化させてしまった可能性があります。すぐに「終息」してくれればよいのでしょうが、今回は変異することからワクチン開発の障害となっており、体内に抗体ができたとしても永続性に懸念があります。また、大人が無症状のうちに感染症を広げてしまう等依然その脅威ははかり知れません。
例えば客室通路幅一つとっても片面客室で1.2m、両面に客室が配置されている場合で1.6mが求められていましたが、十分な換気を実施することや一方通行とすること以外、感染リスクを排除することはできないかもしれません。また、大浴場、温泉、フィットネス等「密」空間ともなります。客室に関しましてもホテルであれば脱靴せず入室することが多く、旅館では脱靴してから入館するケースが多いものの、鞄を床に置いたのちその床に就寝することも懸念されるでしょう。宴会場、レストランでの空間も万一罹患者が参加した場合、特に換気力が弱い環境で、空調による風の流れが生じていれば大規模なクラスター源になってしまう可能性もあります。
今回の新型コロナウイルス感染症対策に必要な対策は、ウイルスに関する知識と、罹患者を想定した訓練、消毒薬の知識と消毒作業の正確な実践の他、特に高齢者や疾患者で重症化する可能性が高い点に十分に留意した上で、安全拠点としての宿泊施設の機能強化が喫緊の課題です。
使用する消毒用薬剤は人体にも大きな影響があることから「フェイルセーフ」と「フールプルーフ」という概念を理解し消毒作業を行う必要があります。フェイルセーフとは、人はミスをしてしまうことを前提に万一ミスを犯しても事故に繋がらないよう工夫することで、フールプルーフとはそもそも絶対にミスを起こさせないことです。消毒用薬剤に関する使用方法、保管及び廃棄等徹底して上記概念に基づくシステム構築が求められます。
施設館内全体については、新型コロナウイルス汚染度に応じた区分けをすることも効果的に新型コロナウイルス感染症予防に有効であるはずです。例えば汚染度の高いエントランス付近を「レッドゾーン」、フロントカウンター(帳場)、共用部トイレ、エレベーターホール、エレベーター内等を「イエローゾーン」、顧客が利用する施設や厨房、スタッフ用バックヤード等を「グリーンゾーン」と定義し、グリーンゾーンでは、換気を徹底する他、顧客の上着、鞄、靴を持ち込まない工夫をすること、イエローゾーンでは「3密」を避け、接触部位に対する消毒を徹底し、消毒した時間等適切に記録しておくこと、顧客がこまめな消毒や手洗いができるよう配慮すること、レッドゾーンではスタッフの安全を確保し、床を含めた除菌消毒を徹底する等各ゾーン別での感染症対策を検討し構築することが宿泊施設を安全施設とするはずです。さらに、高齢者及び疾患者に対する客室を含めその他施設内利用の個別配慮を徹底すること。特に館内の手摺は、高齢者や疾患者が使用することが多いものと考えられることから、定期的な消毒を行う必要があります。
一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
㈱サクラクオリティマネジメント 代表取締役
㈱日本ホテルアプレイザル 取締役
不動産鑑定士,MAI,CRE,FRICS 北村 剛史
北村氏