
前回、観光情報の有力な発信ツールとなったSNSについて辛口な意見も交えて書いた。それに関し、紙媒体を愛するという読者から、「よくぞ書いてくれた」との連絡をいただいた。デジタル発信の威力を認めつつも、SNSなどに紙媒体とは異なる危うさを感じるのだろう。
まず、拡散性と匿名性だ。読者の皆さんが、フェイクニュースや風評被害の当事者となった場合を想定してみてほしい。ある日突然、相次いで宿泊キャンセルの連絡が入る。予約サイトでもキャンセルが多発する。緊急事態宣言や外出自粛要請なら、悔しいだろうが、やむを得ないと諦められる。
しかし、「コロナの感染者が出た」などの事実無根の理由なら、やり切れない。ネットでは風評として拡散が始まっている。ネットは手紙やファックスと比べ、手軽に情報が発信、拡散できる。筆者は新聞記者として訓練を受けてきたので、事実確認をする習慣がある。しかし、一般的には真偽を確かめないまま、口コミで情報を拡散させてしまう。
昨年初夏、新型コロナウィルス絡みで複数の友人から次のようなLINEが転送されてきた。「〇〇病院の看護師です。院内でコロナ感染症のクラスターが発生しています。この事実を広めてください」。〇〇病院周辺は筆者の散歩コースだったため、不安になり、散歩の順路を変更した。当の病院に問い合わせたところ、数週間後、病院側が会見をして明確に否定した。この話も「院内関係者」とうたっているものの匿名だ。
数年前に逆の話も聞いた。あるポロシャツが通常の数倍売れた。値下げしたわけでも、特にPRをしたわけでもない。アイドルタレントが自分のブログで「このシャツ、可愛い!」とつぶやいたのが理由だそうだ。
マイナス面でも、プラス面でもデジタル情報の威力は大きい。いずれにしても、大きな変化があったら、その原因を探ることが欠かせない。関連キーワードによってクライアントの評判などを調査してくれるビジネスもある。
そこまでせずとも、自分たちで定期的にチェックすることは最低限の防止策だ。問題の口コミなどを見つけたらコピー&ペーストで拡散する前段階で、迅速に正確に否定する。ネットの管理者に連絡し、悪質な場合は行政などに相談する。
四国のある県に住む知人の観光バスガイドがコロナ感染者とのうわさをばらまかれた。ガイドの仕事で関西方面に行ったことから、コロナに感染したとの根も葉もない風評が広がった。知人は地方法務局の人権擁護窓口に訴えている。
パソコンやスマホは生活インフラとなった。しかし、コロナ禍は、負の側面をあぶりだした。観光情報発信のツールとしてデジタル発信を活用するとともに、個々の事業者、そして観光協会などが組織として危機管理対策を講じるべきであろう。
(日本旅行作家協会評議員、元旅行読売出版社社長兼編集長)