【ニューノーマル 新常態の観光戦略4】最寄り駅に着いた、さて二次交通は 元旅行読売出版社社長兼編集長 神崎公一


 「ハイキングコースが整備されました。新緑から紅葉シーズンまでお楽しみいただけます」。観光説明会の席上、北関東のある市長自らが力を込めてPRした。トップセールスだ。

 私は交通の便について尋ねた。市長はこう答えた。「〇〇インターチェンジから25分、〇〇駅からも20分ほどで登山口です。東京都内から十分日帰りできます」。私は重ねて尋ねた。「今のお話はマイカー利用の場合ですね。鉄道利用の場合、最寄り駅からのバス便はありますか?」

 市長は虚を突かれたようだった。バス利用は想定外だったからだ。「電車の場合は、最寄り駅からタクシーをお使いください」。私は二の矢を放った。「タクシー料金はおいくらでしょうか。帰路はタクシーの迎えが必要ですね」。

 市長は同席している観光担当職員と小声で話し、片道4千円くらいだと回答した。往復で8千円、結構な出費になる。

 自動車検査登録情報協会によると、令和2年3月末現在の世帯当たり自家用車普及台数は上位に群馬(4位、1.614台)、栃木(5位、1.593台)、茨城(6位1.577台)と北関東3県が連ねている。そのため、観光説明会に臨んだ市長らは、日々の移動はマイカー以外考えられなかったのだろう。ちなみに最下位の東京都は同0.424台で、都内に住む筆者はマイカーを持っていない。

 二次交通の整備は観光地の大きな課題だ。若者のマイカー離れが進み、シニア層の運転免許返上といった状況下では、なおさら重要だろう。送迎サービスを行っている宿泊施設や周遊バスを走らせている地域もあるが、まだ緒に就いたばかりと聞く。旅先での足の便が悪いと移動範囲は限られ、その観光地にとっては大きな損失となる。

 レンタカーを使えば、との意見もある。ただ、筆者は雪道に不慣れで積雪期は運転を避けたい。乗り捨てが可能なレンタカーもあるが、原則、出発地に戻らなくてはならない。

 訪日外国人にとっても事は深刻だ。東京や大阪、京都などはJRや地下鉄、バスが網の目のように走っている。

 しかし、訪日外国人の旅先は大都市に限らない。コロナ禍で激減しているものの最近は思わぬ地方にも足を延ばしていた。彼らを対象にJR全線が乗り放題のジャパン・レール・パスがあるが、目的の駅まで行ってもその先で身動きが取れなくなってしまう。

 コロナ禍を機に国内の近場を旅行するマイクロツーリズムが注目されている。ワーケーションも広がり始めている。後者の場合、全員がマイカー所有者とは限らず、食事や買い物の足はどうするのか。

 シニア層、インバウンド、そしてワーケーション。いずれも地域の経済や観光の振興にとって重要な存在だ。過疎化が進む中で、二次交通の整備は地元住民の利便性はもとより、域外からの集客のカギを握るのではないか。

 (日本旅行作家協会評議員、元旅行読売出版社社長兼編集長)

 
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