購入のトップは「宿泊施設」
JTB総合研究所は、「スマートフォンの利用と旅行消費に関する調査(2019)」を実施した。調査は2013年から実施し、今年で7回目。生活者のライフスタイルや価値観が消費行動や旅行に与える影響に関する調査分析を継続的に行っている。
実施期間は10月11~17日。調査対象者は、プライベートでスマートフォンを利用し、過去1年以内に1回以上の国内旅行(日帰りも含める)をしたことがある首都圏、名古屋圏、大阪圏に住む18歳から69歳までの男女980人。
旅行関連商品の購入については、13年の調査開始以来、スマートフォンでの予約や購入は継続して増加し、19年の調査では過半数を超えた=図1。しかし、購入される商品に関しては明暗が分かれた。
過去1年以内に行った直近の旅行について、スマートフォンを利用して購入した旅行商品の内訳をみると、「宿泊施設」のみが増加し、他の商品は割合が下がっている。また、「宿泊施設」は33.0%と2位の「航空券(12.0%)」を20ポイント以上上回る割合を占めた=図2。性年代別には、29歳以下と30代の男女で特に「宿泊施設」を購入する割合が高い傾向だった。また、29歳以下の女性は「イベントなどのチケット」「レストランの予約」「国内ツアー」など、より多くの旅行関連商品をスマートフォンを通じて購入している。
次に、スマートフォン以外で予約購入した旅行関連商品をみてみると、スマートフォンでは4位と7位だった「国内ツアー」と「現地の鉄道やバス」が、3位、4位となった=図3。順位が上がった「国内ツアー」と「現地の鉄道やバス」について、なぜスマートフォンで予約購入しなかったのか、その理由をみてみると、「いろいろな情報を入力するのが面倒」「店頭や電話で相談するついでに購入」が共に高くなった。「国内ツアー」を買わなかった理由では、特に「いろいろな情報を入力するのが面倒」が41.1%と高くなった。「現地の鉄道やバス」については、「インターネットでは受け付けをしていない商品だった(14.3%)」が比較的高い傾向だった。「高額商品をスマホで購入するのは不安」や「個人情報が漏れると嫌」など、スマートフォンでの購入に関する不安はそれほど大きくないことから、面倒くささや、申し込もうとしてもスマホに対応していなかったことなどが原因となって、「相談するついでに購入してしまおう」という行動につながったのではないか=図4。
ちなみに、スマートフォンでの予約購入、スマートフォン以外での予約購入(パソコン、店頭)における年代分布をみてみると、スマートフォンでの予約購入は29歳以下、30代が多く、パソコンは50代、60代、店頭は29歳以下の割合が多い結果となった。
では、旅行会社の店舗やインターネットでの旅行の予約の際に、どのような点が面倒だと感じているか。
店舗に関しては、「旅行会社店舗の順番待ちが長い(20.5%)」「旅行会社の店舗に行くのが面倒くさい(17.1%)」など、順番待ちやそもそも出かけることのおっくうさが上位となった。
インターネットについては、「商品数が多すぎ、探すのに時間がかかる(15.5%)」「サイト上で入力する項目が多すぎる(14.2%)」などが高く、情報量の多さや作業の煩雑さを面倒と感じている人が多いようだ=図5。
最近では、AI(人工知能)を利用し、チャットで問い合わせや宅配便の再配達を依頼する、といったサービスも増えた。AIサービスの利用経験を聞いた結果、全体では利用率が約3割、29歳以下の男性では5割を超えた。旅行関連のAIサービスの利用率はまだそれほど高くないが、AIのサポートによって面倒くささを排除することができれば、利用が大きく広がる可能性があるのではないか=図6。
次に、旅先に関する情報収集について、旅行前(タビマエ)と旅行中(タビナカ)のそれぞれについて、どのようなところから情報を得ているかを聞いた。
タビマエの情報収集方法としては、「検索サイトで検索した(54.0%)」が最も高く、「旅行情報・口コミサイトやアプリで調べた(29.1%)」「宿泊先のサイトで施設や周辺情報を調べた(28.2%)」が続いた。「宿泊先のサイト」は、その施設だけではなく、地域の情報を知るための窓口としても認識されているようだ。
タビナカの情報収集に関しては、「検索サイトで検索した(27.2%)」が最も高くなった。全体では、「ガイドブックで調べた(26.9%)」を若干上回り、4番目だった。旅先の情報をフレキシブルに、タビナカでも得られることが、より重要になっていると考えられる。また、「現地のフリーペーパー・ガイドブックなどで探した(16.6%)」や「ホテルのコンシェルジュなどに聞いた(13.1%)」も上位となり、インターネットだけでなく、紙や人からの情報も活用されているようだ=図7。
次に、現地での体験を提供するサービス(現地ツアー)の利用実態についてみてみる。その結果、全体では15.0%、国内旅行では12.1%、海外旅行では40.6%が直近の旅行の際に現地ツアーを利用していた。
申し込み先としては、「現地ツアー予約専門サイト(国内2.6%、海外18.8%)」や「旅行会社のオプショナルツアー(国内2.7%、海外16.8%)」とともに、「定額でオプションを自由に選べるツアー(国内2.8%、海外7.9%)」も比較的利用されているようだ=図8。
利用が多かったツアー内容としては、「自然観光ツアー(36.7%)」が最も高く、「シティツアー(26.5%)」が続いた。海外旅行では、上位二つの割合がより高い傾向で、国内旅行では、「テーマパーク」の割合が比較的高くなった=図9。
現地ツアーを利用する理由として、全体と国内旅行では「効率的に時間を使える」が最も高く、海外旅行では「これだけは、という体験を確保できる」が最も高くなった。限られた旅程の中で、できるだけ時間を有効に活用し、悔いのない体験を得たいといった気持ちが読み取れる=図10。また、利用した現地ツアー別に利用理由をみると、シティツアーは全体と同様の傾向だったが、自然観光ツアーは、「自分で行くところを考えなくてよい」や「ツアーでしかできない体験ができる」、テーマパークは「料金がお得」、人気レストランでの食事は「料金がお得」「自分で行くところを考えなくてよい」「現地ガイドの人と交流できる」といった理由も全体と比較して高く、お任せできる気楽さや交流の楽しさなども利用する理由の一つとなっているようだ。
【まとめ】
スマートフォンを利用した旅行商品の購入が広がる中、スマートフォンを利用した予約購入を面倒と感じ、結局、店頭や電話で購入する人も少なくないことが分かった。特に若い年代では、パソコンではなく、スマートフォンで予約することが多いために、小さな画面にあふれる情報から意思決定をしなければならない煩わしさを、より感じているようだ。購入されている旅行商品も、単品の「宿泊施設」が一人勝ちだった。これから若い世代が年を重ねても、パソコンで複雑な作業をこなして予約をするようになるとは考えにくく、サービスはよりシンプルな方向へと流れている。今後は、AIのサポートなどにより、個人の潜在的な欲求も踏まえながら、さらに簡単に、シンプルに、が究極のパーソナライゼーションの方向性かもしれない。
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