ドイツ人の友人が短期日本語留学プログラムのため、東京に来ることになった。その後、休暇を利用して妻籠、高山、金沢、京都などを回り、福岡を経由してドイツに戻ると言う。
宿泊も交通手段も手配したが、一つだけ協力を求められた。福岡滞在中、日帰りバスツアーを利用したいと思い、情報サイトの英語ページを見ると、外国人観光客向けの英語によるツアーが紹介されている。しかし、自分は日本人と一緒に日本語によるツアーに参加したい。日本語ページは難しくて読めないので、代わりに探してほしいというリクエストであった。
さらに、日本語ページには豊富な種類のツアーが掲載されているようだが、英語のページはそうではない。日英のページには異なるツアーが案内されているのではないかとの話であった。私は友人に代わり、数社に問い合わせてみた。いずれも非常に丁寧に対応して下さり、日本語ツアーに外国人が参加することも可能とのことであった。
私は、ホテルに勤務していた頃、上司から言われた指示を思い出した。お客さまが目にするホームページやパンフレットは、必ず多言語化し、内容も同一でなければならない。言語によって内容の質や量に違いがあってはならないというものである。
当時、日本語での情報提供には厚く、それ以外の言語は手薄になってしまうことがあった。また、お客さまのニーズに対応するつもりで、日本のお客さまと海外のお客さまに異なる商品や情報を提供することもあった。
しかし、お客さまのニーズは私たちの想像をはるかに超えるほど多様化している。全てのお客さまに公平に情報発信することの意味をあらためて感じた。そして、海外のお客さまにも単なる観光ツアーだけではなく、体験型商品の提供も求められている。
私の友人はツアーで巡る観光地への関心もさることながら、1日を共に過ごす日本人客との交流や、会話を通じて自らの日本語力をブラッシュアップさせることが目的だと話していた。
結局、バスツアーへの参加は見送り、その分、東京滞在を楽しんだ。友人の行動には多くのヒントがあった。
(NPO・シニアマイスターネットワーク会員 亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科准教授、五十嵐淳子)