
ここ数年の金融機関におけるキーワードが「事業性評価」。額面通りに受け取れば、ビジネスモデルを評価することだが、評価と言う言葉が分析や価値算定にもとれることから、その解釈が難しい。
金融庁の定義によれば「取引先の事業内容や成長可能性を適切に評価する」とある。金融機関においては過去の決算書などによる財務分析は得意だが、将来性の予測や成長性を判断する「目利き」は得意としない。
昔は銀行員が社長さんの良き相談相手であり、事業内容を深く理解し、良いアドバイスができたと言う話は先輩から聞くところだ。不良債権処理やスコアリング審査などのマニュアル化の流れの中で、社長さんとの対話の機会が少しずつ損なわれてきた結果、目利きもできなくなってきた。
金融行政方針の転換から金融庁の検査において、資産査定は行われない。検査が入るとなると、取引先にいって試算表や資金繰り表、パンフレット、製品サンプルまで説明に必要な資料を山ほど用意し、検査の当日、ダンボール箱に入れた資料を幾つも持ち込んで説明に臨んだものだ。
自分の担当先が「分類」されたら大変なことで、いくつもの報告書を書かなければならない。そういった意味で良くも悪くも金融検査は取引先の事業内容や財務内容の総点検という意味で機能していた。
現在の金融検査においてはいかに企業の成長を促す取り組みをしているかが評価されるようになった。金融機関は事業性評価という手法を活用し、取引先の成長を促すビジネスモデルの構築を進めている。
まずは失われた目利き能力を取り戻すべく社長さんとの対話を試みている。事業内容を聞き取りSWOT分析や3C分析などを行い、経営課題を洗い出し、その課題解決手法を提案し、企業の成長を促すといった取り組みだ。金融機関が企業を成長させることが自らを成長させることを認識した結果である。
企業の成長を促す事業性評価の取り組みは今後加速度的に広がっていく。これまで天気の話しかしなかった銀行員が突然「御社の強みはなんですか」などと聞くかもしれない。その対話が金融機関と企業が貸し手と借り手だけの関係から、ウィン・ウィンの関係となり、共に成長する機会となるはずである。
(NPO・シニアマイスターネットワーク会員、千葉芳明)