ホテルに約40年間勤めた後、滋賀短期大学で「ホスピタリティ論」、「ホテル業務概論」他の授業を担当している。特にホスピタリティ論の授業では「相手が欲することを察知して行うこと」と学生に教えている。ただ、「相手」とは男女の違い、年齢の違い、人種の違い(特に訪日客対応)などあり、また、同じ相手でも昨日と今日では欲することが異なる場合もある。一言で言えば簡単だが学生に理解させるためには、いろいろな職種のホスピタリティの例のビデオや文章などを見せて、その都度、どの部分がホスピタリティなのかを考えさせている。
観光産業やサービス業の仕事に限らず、社会でのホスピタリティ、学校でのホスピタリティ、家庭でのホスピタリティを学生が実践してくれることが授業の目的である。
社会のホスピタリティでは、多くの学生がアルバイトを行っており、指示されたことしか行わない「作業」になっていないか、全てのお客さまが満足してもらえるよう「サービス」を実施しているか、そして「ホスピタリティ」の気持ちを常に持って接客を行うよう指導している。毎回の授業では小レポートの提出を義務付けているが、お客さまに「君のあいさつは気持ちが良いねと言われた」とか「店長から心がこもった接客だと褒められた」という報告が書かれていると、授業を行った成果が出てうれしくなる。
また、学校の廊下にゴミが落ちていると自分がゴミを拾うことによって、何人の学生が気持ち良く廊下を通ることができるか考えるよう指導している。誰でも人のゴミを拾うのは嫌であるが、ホテルマン時代に上着のポケットに小さな袋を入れて、ゴミを拾うよう指導されてきたことが役に立っている。
家庭でのホスピタリティの指導では、ただ両親への感謝の気持ちを書きなさいと言っても実感が湧いてこないので、結婚披露宴の「両親への花束贈呈と感謝の手紙」のビデオを見せた後に、「今まで育ててもらって、親に感謝する出来事」と「社会人になったら、親にしてあげたいこと」を書くように指導すると、気持ちがこもった内容が書かれてありレポートをチェックする私の気持ちも穏やかになってくる。
このように、40年間ホテルで働き、その経験を生かして学生に教える人生は、自分にとって「最高の人生」だと思っており、精一杯授業を行い観光産業やサービス業他で役に立つ人材を育成できればと願っている。
(一般社団法人日本宿泊産業マネジメント技能協会会員 滋賀短期大学特任教授 中村吉弘)