2003年に観光立国が打ち出されてから既に16年目に入った。その間、訪日外国人旅行者は大きく増え続け、特に1千万人を突破した2013年以降の増加はめざましく、2016年に2千万人、2018年に3千万人を超え、今は4千万人、6千万人という目標に向かっている。訪日する国や人が増え、多様化すれば、観光客が期待する内容も場所も当然さまざまに異なってくる。このような傾向はモバイルインターネットの普及によってますます強まることが予想されるが、受け入れ側の態勢が追い付いていないところも出ている。
例えば、ツイッターやインスタグラム等のSNSの利用者数の拡大や情報の拡散力によって、普通の日常風景が観光資源化したり、普段親しんでいる身近な場所が新しい魅力として脚光を浴びたりすることも珍しくない。日本の日常が外国人には非日常であり、さらに本物性を求める傾向からその動きはますます強まっている。
他方で、それが一過性に終わる可能性もあるとはいえ、地域に迷惑として受け止められると話は別である。個人旅行、中でもこだわりの旅行者が増えるにつれ、住民と観光客の接点と関係性は非常に密接になってきている。日常生活へのさまざまな弊害や環境の変化にへきえきとする住民や利用者たちが同時に増えているのも事実である。
訪日外国人観光客の増加がもたらす経済的効果は大きいが、一方で観光公害とも表現される地域社会への負の影響についても十分な対策が求められはじめている。そのためには、訪日外国人旅行の社会経済への役割や期待に対し、生じているコンフリクトの状況から問題の本質を把握し、一定の規制を導入することも含めた具体的な対策を取る必要があると思われる。
地域住民が地域の自然や文化を守りながら、そこに暮らし続け、同時に観光客が期待通りの観光ができるように両者の関係性を築くことが重要である。観光による地域経済への効果を可視化し、観光の質的向上に真剣に向き合う時期に来ている。
(NPO・シニアマイスターネットワーク会員 九州産業大学地域共創学部学部長 千相哲)