大手賃貸アパート経営でおなじみの企業による不祥事が、世間をにぎわしている。何でも、住戸間を仕切る屋根裏の「界壁」=「境界」が備わっていないということである。
久しぶりにマスコミが仕事をしているなあと感心もしたが、それはさておき、元来、「界壁」は建築基準法で防火・遮音性能の確保のために必要と規定されており、それらを設置しないということは隣室への生活音の漏れなどにつながっている恐れがある。ホテル経営にとってすればそれらは決して対岸の火事ではなく、客室滞在時においてさまざまな騒音を減らすことがいかに重要なことかはご承知の通りである。
ある大手ホテルチェーンブランドの一つは安眠を一つの売りにしているが、単に防音効果は建物を建てる際に場当たり的に講じるのではなく、もちろんコストの制約やカテゴライズにもよるが、商品作りやマーケティングの方法によりパラダイムをうまく利用することでコアコンピタンスの一つになり得るのである。
同じく防火的側面はどうだろうか? 安全の追求というものはホテル経営だけでなく、経営者としてはビジネスにおいて何よりも優先しなくてはいけない課題であり、今回の不祥事からは不動産業界とホテル業界の「垣根」=「境界」を超えて多くを学ぶべきである。
実際に当該の賃貸アパート会社はホテル経営も独自に行っている。そもそもホテル業と不動産業はとても相性がよく、最近では法制面など、その垣根が次々になくなっていくように思えて仕方がない。将来的には特に互いの業界がさまざまな形でインボルブなされ、例えばプロパーのホテリエ(経営者)が建築士の資格を取得し、かつホテル開発などにおいて有効利用していてもおかしくないのかもしれない。
ところで私事で恐縮だが、少しだけ弊社の紹介をさせていただくと、私共は台湾の企業グループで台湾の主要都市やアジア、ヨーロッパなどにホテルチェーンを展開し、グループ内にはエバーグリーンマリーン、エバー航空など、「国境」=「境界」を跨いでビジネスを行っているものが多い。したがって、そのような「境界」を随時意識しており、時にそれらを読み違えると、例えば、台湾と中国の「国境」=「境界」の問題などに翻弄(ほんろう)されビジネス的に大きなダメージを受けることさえある。
また最近では、米国と中国との通商貿易問題がクローズアップされているが、これもまた「関税」=「境界」ともいえる。
このように世の中には、必要な境界と必要でない境界があるが、ホテル経営者にとってさまざまな「境界」を跨いでバランス感覚を養うということは、ホテルの経営にとって、とても大切ではないだろうか。
(NPO・シニアマイスターネットワーク会員 エバーグリーンインターナショナルホテルズ日本地区代表、諸岡潔)