山形県瀬見温泉には、ふかし湯という一風変わった入浴スタイルがある。後生掛温泉の箱蒸し風呂とも、指宿の砂むし温泉とも風情が異なる。
旅館8軒の閑静な温泉地、瀬見温泉のふかし湯は、板張りの床にある直径5センチほどの穴から、床下を流れる源泉の蒸気が噴き出す仕掛けになっており、浴衣など着衣のまま穴の上にタオルを敷いて横になる。腰だけでなく、肩やお腹など好きなところを温められる。サウナや岩盤浴などよりも短時間でびっしょりと汗が噴き出し、しかも息苦しくない。
瀬見温泉旅館組合と川村学園女子大学観光文化学科(東京・目白)は、2015年から2年にわたって産学連携を行ってきた。組合の要望は、ふかし湯のある公衆浴場のリニューアルを機に、この地域に人を呼び込みたいというものであった。
参加した当時1年生の学生9名は、下調べを重ね、夏と冬に2泊3日で瀬見温泉および周辺の調査を行った。同行した旅館組合の方々は、若者の奔放な意見にじっくりと辛抱強く耳をかたむけてくださった。
SWOT分析の結果、若い女性客獲得のためにふかし湯を紹介したいと提案したところ、「そんなに珍しいものなんですか?」と驚かれた。学生自ら企画、デザイン、モデルを担当し、知恵を絞ったパンフレットが完成した。さらに、「ここまで来てもらうためには、どんな旅になるかイメージできるように」と、周辺の観光スポット情報も整理した。
この連携によって、地域では当たり前でも、実は貴重な財産があることが確認できた。また、学生にとっては教室で教わる理論と実践の関連やギャップを学び、貴重な経験になった。
3度目の訪問時に、仲居さんと抱き合って喜ぶ学生の姿に、観光において人の交流が大切であることもあらためて実感した。「地域の皆さんの温かい人柄や山形弁をお客さまにも体感してもらいたい」という提案は、なかなか実現できないでいる。ただ、すっかり瀬見温泉ファンとなった学生は微力ながらせっせと広報活動を続けている。
(NPO・シニアマイスターネットワーク会員 川村学園女子大学教授、丹治朋子)