
観光需要の回復とともに観光業の人手不足が深刻化しつつある。全国旅行支援の開始や水際対策の緩和で、ようやく日本の観光業界も回復の緒についたが、需要回復に見合う人手確保が喫緊の課題である。例えば、宿泊・飲食サービス業の就業者は、コロナ前に比べ約30万人減少した。これらの離職者に替わる即戦力となる経験者の採用や、若手の採用・育成を早急に進める必要がある。
しかし、観光業界の人材確保は容易ではない。全産業平均を下回る賃金、長い労働時間、変則的な勤務形態、低い有給休暇取得率等に加え、イベントリスクに弱い経営の不安定さがコロナ禍で浮き彫りになったからである。
とりわけ、若者を観光業界に惹(ひ)きつけることは難しい。特に1996年以降に生まれたZ世代は、ワークライフバランスを重視し、働きやすい環境で効率よく働くことを望む。経済的には保守的で安定志向が強い。観光業界の労働環境はZ世代の理想からは程遠い。
抜本的な解決策は労働生産性を上げ、労働条件を引き上げることである。しかし、それはすぐには難しい。疲弊した観光業界に賃上げの経営余力はなく、経験豊かな人材も去り、DX導入の資金力もないからである。また、政府主導の税制面での賃上げ支援も、赤字企業の場合は効果があまり期待できない。
では、Z世代の若者にも訴求できる、すぐに実施できそうな施策はないのだろうか。決定打にはならないが、以下のような取り組みはやってみる価値があるかもしれない。
(1)社会意識が高いZ世代にアピールできる企業理念や事業活動内容の呈示。
(2)WEB説明会やWEB面接、TwitterやInstagram等を利用した採用活動
(3)自己の成長につながるキャリアプランの明示や、社内外研修・ワークショップの開催。
(4)承認欲求を満足させられる表彰制度や提案制度の設定。
(5)オープンでフラットな組織の構築。
(6)福利厚生型・合宿型ワーケーションやリモートワークの導入。
(7)地域連携ネットワークや地域貢献活動のメンバーへの若手登用。
(一般社団法人日本宿泊産業マネジメント技能協会会員 琉球大学名誉教授 平野典男)