【シニアマイスター経営の知恵 162】コロナ禍における旅館業法改正と今後の行方 立教大学法学部特任教授 薬師丸正二郎

  • 2022年10月17日

 政府は、10月7日、新型コロナウイルスなど感染症流行時に、感染防止策(マスクの着用や消毒等)を正当な理由なく拒んだ客に対して、旅館・ホテル側が宿泊を拒否できるための旅館業法改正案を閣議決定し、国会に提出された。これにより、症状がない人でも感染対策に協力しなければ、事業者は宿泊を拒否できることになる。

 今回の改正は、昨年から7回にわたり開催された旅館業法の見直しに係る検討会の検討結果を踏まえてのものであり、改正事項は4項目に及ぶ。

 具体的には、(1)旅館業の営業者が宿泊を拒むことができる事由の見直し(2)事業譲渡による旅館業の営業者の地位の承継に関する事項(3)従業者に対する必要な研修の機会の付与に関する事項(4)宿泊者名簿の記載事項の見直しに関する事項である。本コラムではとくに実務に影響を与えると考える(1)について触れたいと思う。

 現行法上、宿泊拒否要件は、伝染性の疾病にかかっていると「明らかに認められるとき」(第5条第1号)とされており、発熱等の症状だけでは該当しないことから事業者から改正の要望があった。

 確かに、不特定多数の人々を宿泊させる宿泊事業者としては、宿泊客および従業員の安全を保護する必要があること。さらに宿泊拒否制限条項は、従来から時代の変化に合わせて削除すべきとの意見も出ていたことからも、今回の改正の要望は十分に理解できる。しかし、平成15年のハンセン病元患者の宿泊を拒否した黒川温泉事件に見る患者等や障害者に対する不当な差別が発生し得ることにも配慮する必要性があり、宿泊契約締結の可否について何ら基準を設けず、事業者の裁量に委ねることには問題があるともいえる。この意味で、両者の利益を調和し、一部改正の手法を採ったことは妥当な結果と評価できる。

 そもそも、法律は対立する利益を調整する手段であり、世の中の秩序を創るものであるから、時代の変化や現実の要請に伴い、削除も含めて議論することは重要である。

 しかし、宿泊拒否制限条項は旅館業法に始まるものではなく、明治19年の「宿屋取締規則標準」にも規定されていること。また日本と異なる法体系であるイギリスでも16世紀にその起源をみることができ、現在も違法な差別を防止するための法律が規定されている重要な法規整である。従って、改正にはこれらの詳細な分析が必要であることも忘れてはならない。

 今回はコロナ禍において、旅館業法の課題が浮き彫りになったが、これを機に多角的な視点から宿泊業に伴う法規整の在り方を考える契機になるとよいだろう。

 (立教大学法学部特任教授・日本宿泊産業マネジメント技能協会会員 藥師丸正二郎)

 
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