
6年前にインスタグラム(以下、インスタ)を始め、今では観光、本、植物、三つのアカウントを使うインスタ愛用者である。旅行できなかった昨年は、メルボルンの自然、タイの海、アムステルダムの水辺、プラハの町並み等々、インスタに随分慰められた。
これら諸都市のインスタは長年にわたり毎日投稿されていて、SNSを駆使した観光地情報発信のいいお手本である。インスタの効果が最も高いのは1日1回投稿。毎日投稿するとは毎日撮るという意味ではなく投稿方針を決めて毎日載せることで、継続するには観光資源写真の蓄積が必須だ。町の風景、奇麗な場所、おいしい店、四季の花。このコロナ禍で、観光資源のアーカイブ化に対するインスタの有効性をより意識した。
さて、常々これを旅館が実践したらいいと思っていた。というのも近年は、一つの旅館で1泊2食するだけでは地域の持続性につながらず、旅館は地域と共にあるという考え方が浸透してきたから。街ごとホテルの取り組みや旅館での体験型アクティビティの増加がそれを示している。今のところ、旅館のインスタの多くは食事や室内など敷地内にとどまり、桜が咲いた、紅葉が見ごろ、と載せている場合でも思い出したように月1度という具合で何とも頼りない。手間だし載せるものがないと敬遠されるかもしれないが、身近なところにも資源はある。当たり前すぎて見過ごしがちだが、今も昔も植物は人を引きつけるのである。
現に、花や山野草のインスタアカウントはとても多く、コロナ禍でますます増えた。花/自然好きとつながりたいというハッシュタグは何百万と投稿され、嗜好性でつながる結び付きは次の展開をもたらす可能性がある。インバウンドも同様で、コロナ以前は自然散策する旅行者が増えていたし、江戸時代にさかのぼってみればドイツ人医師ケンペルは日本の植物に感嘆して「日本誌」を記した。将軍に謁見(えっけん)するため長崎から江戸へ向かう途中、宿場町では園芸ブームで彩られた家々の植木を楽しみ、道中は思わず馬を止めて山里に見とれずにはいられなかった。
(一般社団法人日本宿泊産業マネジメント技能協会会員 田中智麻)