【シニアマイスター経営の知恵 127】観光という言葉の意味を問う 東京第一ホテル松山代表取締役 野村忠秀


 2008年10月、わが国の「観光立国」の推進体制を強化するために観光庁が設立された。2020年訪日外国観光客数4千万人の目標を掲げ、地域社会の持続可能な発展を通じて国内外からの観光旅行を促進することが、将来にわたる豊かな国民生活の実現のため特に重要であるという理念を掲げた。この方針は2020年までは順調に推移し、さらに2030年の外国人旅行客6千万人の目標へ向かって進められていた。

 2021年春、新型コロナウイルスの感染拡大により、国は人の流れを止めた。われわれ観光産業においては、人が動かなければ商売にならない。移動があり、宿泊があり、飲食があり、物産の購入へと結びつく消費行動が止められたのである。

 観光庁は、同年7月にGo Toトラベル事業を開始した。疲弊した観光関連産業のために、旅行客の動きを促進しようとしたものである。対象とした旅行形態は、ビジネス利用を想定しない観光旅行をターゲットとしたものであった。地方都市のビジネスホテルにおいては、観光客も受け入れているが、上限2万円、50%の還元率の枠組みは、宿泊代金が5千円を下回るビジネスホテルの需要喚起につながらなかった。加えて会社経費での支払いはGo Toトラベルの対象外と宣言された。

 宿泊客は観光もビジネスも区別しない。出張に行けばお土産を買う。取引先と飲食や宴会を行う。仕事の合間に観光地を訪れ、ゴルフ場に向かうこともある。たまには、家族と合流し、観光旅行へとつなげる場合もある。MICEではほぼ所属する団体や会社の経費を使い旅行を行う。

 元々のこれらのビジネス旅行需要を戻さずして、上乗せの観光のみに注力するのはいかがなものであろうか? 全国各地には、さまざまな需要に応じた宿泊施設があり、コンベンション施設、スポーツ競技場等の施設がある。人々は、さまざまな目的で宿泊施設を利用する。この多種多様な地方の宿泊施設が維持、存続できなければ、地域の価値は低下し、さらに観光客の減少につながっていく。

 国には、さまざまな宿泊施設の維持、存続に最大限の支援をお願いしたい。

 (一般社団法人日本宿泊産業マネジメント技能協会会員 東京第一ホテル松山代表取締役 野村忠秀) 

   

 
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