郡上本染鯉のぼり寒ざらし(岐阜県郡上市)
岐阜県郡上市といえば、日本三大盆踊りの一つにも数えられる「郡上おどり」が有名だ。城下町の美しい街並みの中で優雅に踊られる盆踊りの光景は、この街の大きな観光資源ともなっている。
郡上の名物は踊りだけではない。もし足を運ぶ機会があれば、ぜひ伝統工芸の「郡上本染」にも注目してもらいたい。400年以上の歴史を誇る「渡辺染物店」のホームページによると、郡上本染とは、「正藍染」という江戸時代から続く伝統の染色技術のことである。タデ科の藍草を発酵させた「すくも」に、「灰汁」「石灰」などを混ぜ、それを土間に埋め込んだカメの中で発酵させた染め液で染色を行うという。その実物は、街中の「郡上八幡博覧館」などの施設で見ることができる。眺めていると吸い込まれそうになるくらい深い青に思わず見とれてしまうことだろう。
郡上では「郡上本染」の技術を使った鯉(こい)のぼりも製作している。その際、目やうろこなどに柄入れをするのに使うのが「カチン染め」という技法だ。糊(のり)置き、着色が終わったら、「カチン染め」に使った糊を落とすため、冬場に川で鯉のぼりを一晩さらす。これを「寒ざらし」という。真冬の川にさらすことで、生地が引き締まり、藍の色も鮮やかになるのだ。
郡上八幡の川に寒ざらしの鯉が並ぶ風景は、冬の風物詩として、例年多くの観光客を集めている。川のせせらぎに揺れるたくさんの鯉は、本物の魚のよう。寒空の中で作業をする人々を見るのは楽しい。糊が落ちていくに連れて、どんどんと鯉のうろこが現れてくる様子はとても神秘的だ。そして夜には鯉のぼりのライトアップもされる。
また、寒ざらしが公開される節分の時期は、街中で「お雛(ひな)まつりと福よせ雛」というひな祭りのイベントが始まるタイミングでもある。雛人形の展示や、会期中は餅つきなど、さまざまなイベントが行われるようだ。寒ざらしを見に行くなら、ぜひこのイベントにも立ち寄ってみてはいかがだろうか。
(お祭り好きライター・小野和哉)
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おたまのような道具で糊を落とす