
跡見学園女子大学「観光温泉学」(履修生221人)の本年度授業を終えたところです。
履修生が多いという理由でオンライン授業となりましたが、だからこそ、大分県別府温泉から生配信という新しい授業スタイルを試みました。
パソコンを持ちながら、別府北浜地区に建つ「野上本館」からスタートし、街歩きしたのです。
「野上本館」は安価で素泊まりができ、大勢の外国人観光客を受け入れてきました。また2013年ごろにリニューアルで作ったひとり客に人気のこじんまりとして使いやすくしゃれた部屋や、リモートワークしやすいラウンジなど、先進的な取り組みをしています。こうした解説をしながらパソコンのカメラで館内を映しつつ、すれ違った外国人のお客さんに話しかけてみたりして。
その後、外に出て伝統的な共同湯・竹瓦温泉へ向けて3分ほど歩きました。
竹瓦温泉の前で、共同湯の建築の特徴などを教えました。ふと、湯上がりにベンチでくつろぎ、涼んでいるご婦人お2人に気付いたので、話しかけてみるとリラックスした状態で実によくしゃべってくださる。お2人とも家のお風呂は使わず、毎日、竹瓦温泉に来ているそうです。
事前の仕込みではないので、予定調和でない、ズバリ本音の数々が―。
お1人が「内臓のがんを切除して療養中」とおっしゃるので、「温泉は術後の傷痕や体力の回復に効果ありますか?」と尋ねると、「そんなの、ない!」と、きっぱり。
ただ続けて、「私は脳梗塞もした。大腸がんもして、今度は膵臓(すいぞう)。医者には『外科のデパート』なんて言われているけど、でもこの通り元気だよ。それは毎日この温泉に入っているからで、傷跡の回復? そんなの問題じゃない。ここに入ってなかったら、もうくたばってるよ。今年、89歳!」と、とても気丈に、みなぎるパワーで温泉の効果を語ってくださったのです。
私は、「す、すごい!」と叫びつつ、そのままインタビューを続けて、共同湯に入る時のマナーなども尋ねました。「地元の人とあいさつを交わす」「熱いお湯を勝手に薄めない」「人にお湯がかからないようにする」などだそうです。
毎日こうして温泉を利用する人生の大先輩の言葉は説得力抜群でした。
この日は36度の酷暑。吹き出す汗を顔ににじませて、全て1人でやった配信授業ですので、一部、通信の不安定さは否めず、冷汗もかきましたが、学生さんには好反応!
「初めての授業スタイルだった。観光を学ぶなら、現地からの中継は理にかなっている。今後もこのような授業を期待する」などが主な感想で、9割の学生さんは「地元の人の話が聞けたことが大きな収穫だった」と受け止めてくれていたのです。
温泉は、ただのお湯。そこに人が入ってこそ意味を成し、産業につながる。温泉を語る場合は、利用者のリアルな声が最も大切なのだと、私自身も再認識する好機となりました。
学生さんの中には、「就職活動の面接で、習ったばかりの温泉の知識を披露したら『詳しいね!』と採用になりました」とうれしい報告もいくつかありました。
本年度で「観光温泉学」の講義も丸7年になりましたので、地方自治体の観光局や、ホテルや温泉宿に就職する学生さんも多数出てきました。彼女たちと現場で再会することが私の夢です。
来週から「観光取材学」の集中講義です。4日間で、90分授業15回をこなす、授業を受ける方もする方も体力勝負ですが、学生さんに向き合い、観光産業に興味を持ってもらえるように力を尽くします。
(温泉エッセイスト)