【ちょっと よろしいですか 111】「ひとり客」を受け入れるコツ 旅人としてのリクエスト 山崎まゆみ


 このところ宿泊施設の皆さんがひとり客を受け入れるために客室を改修されている光景をよく見かけますし、その相談を受けることがあります。

 私がひとり旅を始めたのは2000年代前半でした。まだまだ「女性のひとり旅は寂しいもの。問題を持ち込む可能性もある」と、避けられがちでしたが、2012年に女性のひとり旅のノウハウをつづった「おひとり温泉の愉しみ」(光文社新書)を出版しました。「斬新!」と評価されましたが、私には意図がありました。それは宿泊施設の皆さんから「閑散期や平日は館内がガランとしている」というお悩みを聞いていましたので、「閑散期や平日の、宿が静かな時に休みを取りひとり旅を!」とうたった本にしたのです。

 あれから10年余り―。

 今では、「ひとりで旅ができることはカッコいい」という風潮さえ感じます。宿泊施設の皆さんも、ひとり客に慣れてきておられ、適度にほっておいてくださる感じが、実に好ましいです。

 こうしたひとり旅の変遷を知っている者として、宿を利用するお客の目線で、ひとり旅の心境をお伝えします。

 ひとり旅がしたくなる一番の理由は、ズバリ「自由になりたい」です。

 旅の日程も行程も、宿での過ごし方も、すべて自分のペースでよい。この気ままな心地良さに目覚めてしまうと、ひとり旅にはまります。

 私の場合は、自由を存分に味わうために、宿だけを決めて旅に出ます。あとはお天道様に相談しながら、その日の気分で目的地までのルート、立ち寄り先やランチを全て決めます。温泉旅館・ホテルの場合は、お湯と語らうことができるのが醍醐味(だいごみ)です。

 ひとりで温泉に浸かるから、そのお湯が肌になじむか、刺激を感じるかなど、温泉との相性を見極めることができます。これは友人とおしゃべりしながら入浴するのでは得られない感覚で、温泉を知る第一歩となり、日本文化である温泉に興味が湧きます。

 ひとり客を受け入れる際のポイントをいくつか。

 まずは「うたた寝」グッズのご用意を。湯あがりは、部屋でごろんとするのが最高の快楽。私は文庫本を持参しますが、すぐにまぶたが重たくなりページは進みません。この至福の時のグッズとして、ベッドのない部屋なら、ソファーやうたた寝枕やブランケットがあるとうれしいです。

 ひとりだから、その土地に興味を抱きやすい。今日歩いてきた町の成り立ちや、郷土料理のルーツなど、旅先でこそ好奇心が湧くものです。私は郷土本を手にすることがとても多いです。郷土史を知ることで土地に愛着が生まれます。旅館のパブリックスペースを活用し、図書を置くのはいかがでしょうか。

 ひとりになりたい旅ですから、客室へのあいさつなどは不要です。ただ食事処にはご配慮ください。ひとり旅初心者にとって、最大の難関はひとりで食事をすることです。入浴はひとりの方が湯を観察できる。客室でひとりで過ごすのも苦ではない。唯一、食事はこの私でも話し相手がいないゆえ、目のやり場に困ることがあります。

 例えば、カウンターの景観のいい席で用意していただくと、とても気持ちが楽です。以前、海に面した席で鉄板焼きを頂いたことが忘れられません。目の前で旬の食材を焼いてくれますから、見ていて楽しい。シェフも、さりげなく「月の光が海に映り、海上に光の道ができるんですよ」と話しかけてくださったので、ちょっとした会話が弾みました。

 最後にお願いです。ひとり旅は旅先のハプニングやトラブルが起きたら、自身で対処しなければいけません。悪天候の場合のフライトや電車の遅延、また体調の変化など、困ってしまった時に、宿の方々は相談にのってあげてください。

(温泉エッセイスト)

 

 
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