
ここ数年、時代の変化から観光客のニーズの多様性を感じる日々です。それに応える宿泊業の皆さんの大変さをお察しします。
私は時代の流れに伴うニーズの変化を読者の皆さんにお伝えすることで、お役に立てればと考えています。
本原稿では「ひとり旅」ブームについてお話しします。
近年、旅に関する書籍や雑誌で「ひとり旅」のテーマが売れる傾向にあります。
昨年9月に刊行した拙著『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)も売れ行き好調です。
発売後、著者である私自身も驚くほど、「山崎さんのような旅をしたい」という声を読者からいただきました。リアルでお目にかかれた読者から、拙著を手に「ひとり温泉」を楽しんできた様子を詳細に伺ったことも何回かありました。
拙著『ひとり温泉』も含め私の著作の多くはガイドブックではありません。あくまでも旅のエッセイ集であり、その大部分は体験記です。
情報という点ではガイドブックほど網羅的ではありませんが、拙著と共に旅に出る方の多さを目の当たりにして、情報の確かさに責任を持たねばならないと感じました。
実は、今年4月に「ひとり温泉」に特化した続刊を出版します。ひとり旅の宿の選び方などを記し、通年(年末年始も含む)ひとり客を受け入れる宿も紹介しています。
その情報の確認のために、多くの宿に連絡しました。
すると以下のような回答が届きました。
「通年、ひとり客をお受けしています。リノベーション工事が終わった棟も、ひとり用の客室を設けたのですが、その棟で1番人気の客室です。職人さんのお力を借り、以前の趣を残しつつも現代にあわせた客室になりました」
シングルルームが好評という点では、こんな回答も。
「うちは15室中5室がシングルルームです。ひとり旅の需要はコロナ禍以降、特に目覚ましいですね。ネットの予約ではシングルルームから先に埋まっていきます。連泊の方が多いのも特徴です」
宿にとっては1部屋に、複数のお客さまが泊まる方が収益が上がることは、私も重々承知です。
それでも「老若男女、気兼ねなく、おひとりで旅を楽しんでいらっしゃる姿に、私も明るい気持ちになります」と言う女将の言葉から、時代の変化を受け入れ、応える様子が感じられました。
重要文化財に指定された1泊2食付きの老舗旅館のオーナーからいただいたのは、「ひとりのお客さんがすごく増えました。うちは以前からお受けしていますが、かつては『自殺するんじゃない?』という不安がありました。ですが今はもう皆さん、ご立派な方ばかりで」。
続刊を執筆する際に感じたのは、ひとり旅のスタイルはこれから主流になっていくのではないかということでした。
「1泊2食の宿から、食事を外して、滞在型の宿に改修しました」というオーナーの声からも、ひとり旅を受け入れる今後の宿の方向性なども見えました。
ちなみに、草津温泉では1泊朝食付き「イチアサ(一朝)」を導入したことで、ひとり客の受け入れはもちろん、20代の若い客層に人気があると聞いています。
(温泉エッセイスト)
(観光経済新聞2025年1月27日号連載コラム)