【ちょっとよろしいですか 139】跡見学園女子大学「観光温泉学」を終えて 山崎まゆみ


 8年目となる、跡見学園女子大学「観光温泉学」の最終講義を無事に終えました。今年は、大学のブロッサムホールでの対面授業に加えて、配信授業を2回実施しました。

 草津温泉から配信授業をしたことは、以前、こちらでつづりましたが、「箱根 円かの杜」からも、女将の松坂美智子さんが素敵なお着物姿で、女将になった経緯と、女将としての日々の仕事、そしてインバウンド客のもてなしや温泉文化継承について、CO2を出さない「水素コンロ」導入の取り組みなど、示唆に富む話をしてくださいました。学生さんは、美智子女将のお話もさることながら、お着物での上品な所作に感銘を受けていました。

 またゲストスピーカーとして、日本温泉協会の関豊専務理事にお越しいただき、温泉文化についてユネスコ無形文化遺産登録への動きや、温泉保護の観点からお話しいただきました。学生さんは「温泉は日本の貴重な文化であることを認識した」という感想を筆頭に、温泉は限りある資源であることを強く感じたようです。

 実は、もうひとりゲストスピーカーがいます。その方は2021年に「観光温泉学」を履修して、2023年3月に大学卒業後、長野県渋温泉「春蘭の宿 さかえや」に就職し、現在は仲居として働く鈴木陽菜さんです。鈴木さんは宿の仕事の中抜け時間を活用し、旅館からオンラインで授業をしてくれました。

 もちろん美智子女将や関専務理事のお話は学生さんの心に刻まれましたが、就職して間もない本学の卒業生という鈴木さんからの話を、学生さんは身近に感じたようです。

 鈴木さんにはあらかじめ「具体的な仕事内容」「働いてみて感じたこと」「仕事先としての『さかえや』さんの魅力」「渋温泉の魅力と課題」「20代の女性の誘客方法」などを話してもらうよう、お願いしていました。

 鈴木さんは、どんな話題も笑顔で語り、落ち着いていました。そして自信に満ちた口調で「旅館の仕事を選んだ理由は、自分を磨けるから」と明言しました。実際、お客さんと触れあうエピソードの数々は、鈴木さんの願い通り、自身を成長させてくれる出来事の連続であり、それら具体的な話が学生さんに響いたようです。

 この日の学生さんからの感想は「大学の卒業生の先輩から旅館で働く生の声を見聞きすることができて、とても良かった」が大多数。「宿泊業はブラックのイメージでしたが、それが覆り、働く自分が想像できた」という意見も。

 私が最もうれしかったのは、「これまで就職先として宿泊業はノーマークだったが、今度のインターン先に旅館を選ぶことにした」など、宿泊業が就職先の選択肢に入ったという学生さんが数十人いたことです。

 好評だった最大の理由は、自分自身が成長できる仕事先というだけではなく、インバウンドの多い「さかえや」さんで、訪日客とのコミュニケーションを通して、温泉文化を伝える鈴木さんの姿が見えたからだと感じています。いわば鈴木さんは温泉旅館という最前線の現場で、日々、国際交流をしているのです。ただのサービス業にはとどまらない、自国の文化を広く伝えるミッションを担っている。そこが学生さんには新鮮だったのでしょう。

 宿泊業において、人材不足が深刻化していますが、年の近い人が働く姿をリアルに見せることで、若い学生さんたちに興味を持ってもらうことが最も近道です。

 本年度は履修生の半数弱が100%出席という参加率の非常に高い授業となりました。しっかりと教え、優秀な学生さんたちに宿泊業への関心を高めるよう、これからも努力していきます。

(温泉エッセイスト)

 
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