
豊かな文化と多様性を備えているセクシャルマイノリティ(LGBTQ+)層は、他の消費者グループ同様、心から好んで旅行します。むしろこの旅行者層は、平均より旅行回数も可処分所得も多いことがまだ広く知られていなく、LGBTQ+層はホスピタリティ業界にとって潜在的優良顧客です。
しかしながら、LGBTQ+層の旅行者にとっては、旅先の社会的理解や法的保護など、安心して旅行できるか否かを検討する必要もあり、旅行業界も配慮すべき点がいくつかあります。幸い、日本は全ての旅行者に最上級のおもてなしを提供する国であり、LGBTQ+層が安心して旅行を楽しめる旅先の一つです。
旅行需要の回復とLGBTQ+の旅行者の経済力
LGBTQ+旅行市場は2030年までに1億8千万人の旅行者を含む市場に成長すると予想されています。コロナ禍で旅行を控えている人々が多い中、最新データによるとLGBTQ+層は最初に旅行を再開するグループの一つとなる可能性があります。実際、その他の旅行者グループより旅行に対し前向きであるという調査結果もあります。
LGBTQ+層は旅行への意欲が高く、そのための経済力も備えています。LGBTQ+旅行者が旅行に対しての世界支出は2180億米ドルに達します。さらに詳しく見れば、コロナ禍の前、アメリカのLGBTQ+旅行者層の1年の平均旅行回数は6・8回で、旅行への年間支出額は631億ドルでした。日本では11人に1人がLGBTQ+とされており、この層の旅行者がコロナ禍前に旅行に費やした金額は207億ドルでした。
LGBTQ+旅行者層にアピール
LGBTQ+層が旅行で重視する点は安全性と快適性です。LGBTQ+歓迎のイベントや、同じLGBTQ+の旅行者層と会う機会、LGBTQ+を温かく迎え入れる態勢が整った宿泊施設であることも重要な要素です。旅行の方法、目的、旅行先を選択する際も慎重に情報をチェックし、LGBTQ+に対して理解があり、安心できる場所を好む傾向があります。実際、約70%がLGBTQ+を歓迎している宿泊施設を滞在先に選ぶことが多いと回答しています。
またこの旅行者層の大多数が、ホテルまたはホテルチェーンが、性的指向による差別を容認しないことをポリシーに掲げている、またはLGBTQ+層への対応をテーマとするスタッフトレーニングを実施しているか否かを知ることは、重要であると答えています。どの宿泊施設も旅行者が楽しめるよう工夫を凝らしているつもりでも、実はLGBTQ+旅行者の3人に1人が、日本を旅行する際に宿泊施設のスタッフの目を気にしたり、好奇の対象にされたり恐れています。
Expedia Groupは、「人々と世界をつなぐ」という目標に向かって進んでいます。この目標のもと、Expedia Groupに属するアメリカのOrbitz、日本のHotels.comは、絞り込み条件の選択肢に「LGBTQ+歓迎」を加え、ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)に関するガイドラインに賛同している宿泊施設を探し出すことができるよう配慮しています。性的指向および性同一性に関するスタッフトレーニングの実施や、LGBTQ+歓迎のアクティビティやLGBTQ+層へのお薦め情報の提供などの諸条件を満たした宿泊施設が検索結果に表示されます。
生き方としての社会正義
LGBTQ+層以外では、40歳未満のミレニアル世代と23歳未満のZ世代が社会正義と多様性に強い関心を持っています。この層は、就職先や購入する商品など、生活全般において、多様性に傾倒しているブランドや企業を求めます。LGBTQ+層は旅行者全体の一部ですが、多くの旅行者が、自分自身の信念と一致する企業を支援するために、ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)を実践している宿泊施設を選びます。
日本はおもてなしの心と平等を重んじる国であるため、ソーシャルインクルージョンの実践を推奨する必要などもはやないと思われるかもしれません。しかし海外からの旅行者は、宿泊先を決める際、少しでも安心材料が多い施設を選ぶ可能性があります。
日本全国の宿泊施設の皆さまにLGBTQ+旅行者層をお迎えいただけることを願っています。あらゆる旅行者に温かいおもてなしと豊かな文化を示す日本の旅行業界が、今後ますます発展をすることを信じています。
(エクスペディア・ホールディングス代表取締役、マイケル ダイクス)