「障害者も高齢者も快適な旅行を」 東京都、アクセシブルツーリズム推進


パネルディスカッションで有識者らが考えを述べた

シンポジウムで環境向上促す

 東京都は1月28日、障害者や高齢者など誰もが快適に旅行できる環境づくりを目指す「アクセシブル・ツーリズム」の推進に関するシンポジウムを都内のホールで開いた。東京オリンピック・パラリンピックの開幕を目前に控え、観光事業者や住民にアクセシブル・ツーリズムの実現に向けてハード、ソフト両面の受け入れ環境の向上に役立ててもらおうと、パネルディスカッションなどでヒントとなる情報を発信した。

 「アクセシブル」は、利用しやすい、近づきやすいなどの意味。東京都は、高齢化社会の進展なども踏まえ、アクセシブル・ツーリズムの推進を掲げ、宿泊施設のバリアフリー化を条例や助成金で推進するなどハード面の整備に注力するほか、障害者などへの声掛けの事例をまとめたハンドブックなどで「心のバリアフリー」の普及にも取り組む。旅行者向けには、バリアフリーとバリアの情報を盛り込んだ観光コースなどをPRしている。

 シンポジウムで東京都産業労働局の十河慎一次長は、東京オリンピック・パラリンピックの受け入れ準備は最終段階と説明した上で、「世界中からさまざまな方々が集まるこの機会に素晴らしいおもてなしであらゆる旅行者を魅了してほしい。誰もが安心して快適に都内観光を楽しめる環境整備を進めるとともに、オリンピック・パラリンピックを通じた価値あるレガシーとして、『世界一のおもてなし都市・東京』が実現できるよう、皆さまのお力添えをお願いしたい」とあいさつした。

 パネルディスカッションは、アクセシブル・ツーリズム、アクセシブルな社会の在り方がテーマ。経済評論家で元NHKアナウンサーの西村晃氏を司会進行役に、有識者などのパネリストが先進的な取り組みや目指すべき姿を提言した。

 企業コンサルティングなどを手掛けるチャックスファミリー代表取締役の安孫子薫氏は、元東京ディズニーリゾート(TDR)運営部長で、TDRの取り組みからアクセシブル・ツーリズムについて提言。「TDRは一つのコンパクトな都市、町とも言えるが、バリアフリー、アクセシビリティーなどにはこの20年ぐらいで相当に先進的なものを取り入れており、まちづくり、施設づくりのベンチマークになる」と述べ、参考になるTDRのポイントとして(1)施設やツールの整備(2)情報の提供(3)人のホスピタリティ(4)災害など非常時の対応―を挙げた。

 安孫子氏は、情報提供に関してTDRの「インフォメーションブック」を紹介。身体、視覚、聴覚の障害者、車いすの利用者などに向けてサービスや施設の情報を約60ページにわたって説明し、ホームページでも公開されている。「障害者の方などがどんな遊び方、どんな過ごし方をできるのか、事前に知って計画できるようにすることが大事だ」と指摘した。

 ホテル椿山荘東京(東京都文京区)のマーケティング課長、眞田あゆみ氏は、ユニバーサル仕様の客室「プライムスーペリア」について紹介した。車いすでも動きやすいスペースの確保、手すりや引き戸の設置など施設面の対応とともに、他の客室と同様の高いデザイン性を保ち、ガーデンビュー、シティビューの客室が選べるなど、「ホテル滞在を楽しんでいただくことを大事にしている。他の客室をご利用いただく場合にも、貸し出し備品にバリエーションを持たせるなど、状況、状態が異なる一人一人のお客さまにさまざまなご提案ができるようにしている」と話した。

 日本財団パラリンピックサポートセンター推進戦略部プロジェクトディレクターの根木慎志氏は、車いすバスケットボール選手としてシドニーパラリンピックに出場した経験を持つ。「国内外のホテルを利用してきたが、事前の情報提供は大事。人それぞれに求められる対応は違うので、決めつけずに相手の思いをくみ取ってほしい。パラリンピックのムーブメントは、多様性を認め合い、みんなが輝ける共生社会の実現。東京オリンピック・パラリンピックが新たなスタートになる」と語った。

 シンポジウムではこのほか、基調講演として、強風で飛ばされた木製看板によるけがで車いす利用者となったアイドルグループ「仮面女子」の猪狩ともかさんが体験を語ったほか、アクセシブル・ツーリズムの推進に関する六つのミニセミナーが行われた。

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