「ポストコロナ時代」の地方創生 藻谷浩介氏に聞く

  • 2022年1月14日

藻谷浩介氏

「外貨」稼ぎ、域内で循環する仕組みを

 「地方創生」に詳しい藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員に「ポストコロナ時代の地方創生」をテーマに話を伺った。

 ――地方創生の成功事例、成功理由について。沖縄やニセコがよく例に挙がる。

 地方創生の最終目的は、地域で働く若い世代を増やし、子どもの減少を食い止めることだ。

 そのためには、「外貨を稼ぐ」産業、たとえば集客交流関連などの売り上げを増やし、さらにその売り上げが、地域内で循環する仕組みを作らねばならない。その2地域を例に、説明しよう。

 沖縄はかつて、「海はきれいだが、食事はおいしくない」観光地だった。しかし今では、海よりもグルメが目的の客の方が多い。県産の牛や豚のブランド力が高まり、いまや畜産王国。野菜栽培も観光客向けからスタートし、最近は東京のスーパーでも沖縄県産が普通に並んでいたりする。農業者が研さんを積んで、県外に売る能力を付けたのだ。

 リゾートの建築も、最近できたものほど、地元産の石灰岩や赤瓦などの建材を多用している。

 これらの結果、沖縄では、観光客向けの売り上げの中で、本土に戻らずに県内で循環する部分が大きい。その結果、さまざまな産業に雇用が生まれ、若い世代の流出入はトントンを維持している。

 ニセコでも、地域元々の中心産業である農業が、観光客市場もつかんで発展している。総人口も。子どもの数も増えているし、近隣の真狩などの純農村でも農業が活性化し、若い人が流入している。

 そんな沖縄やニセコで感じるのは、「地元産を使う」という意識が、観光事業者にも浸透しているということだ。

 沖縄では、島にんじん、島らっきょう、島豆腐、島酒(泡盛)と、食材によく「島」を付ける。観光客にも出すし、多くの県民も愛好する。観光や行政の関係者には、島内産のかりゆしウェアを着ている人が多い。

 そのような意識が強くなってきたのは、2000年の九州・沖縄サミット以降だろうか。その会場となった万国津梁館は、サミットの直後はカフェでごく普通のコーヒーや紅茶を出していた。しかし4~5年たつと、さんぴん茶やうこん茶など、沖縄独自のものを、黒糖を使ったお菓子などと一緒に出すようになった。

 マンションなどでも、琉球瓦を使ったり、ベランダにシーサーを載せたりする例が多くなった。

 ――コロナ禍や人口減少で地域での消費が細る中、「関係人口」が注目されている。

 沖縄は、観光への依存度が高い上、コロナへの感染も多く、深刻な打撃を受けた。

 しかしそんな中でも、都会在住の「関係人口」を県産品の市場にしているのは、沖縄の強みだ。

 県が県外6カ所で展開する「わしたショップ」は、沖縄の産品を愛好する都会人に人気の店だ。

 県内の事業者に、棚を半年や1年貸して、その間、お店に来た人を自身の通販の顧客として取り込んでくださいという仕組みになっている。卒業した企業が通販客をグリップすることで、県産品の市場も拡大する。

 もちろん北海道の産品も全国で人気だ。北海道産を選んで購入する人や、ふるさと納税をする人は皆、北海道の関係人口ということになる。

 だが残念なのは、「道内産」が「国産」として流通してしまいがちなことだ。北海道の農業は生産性が高く、大手の食材加工に産品が流れるケースが多いからだ。

 ポテトチップスなどに使われるじゃがいもにしても、最近人気のパン用やパスタ用の小麦にしても、「国産」と表示されて大手メーカーにも使われ、商品のブランド価値を高めているが、もう一歩突っ込んで北海道産と表示してもらう努力が欲しい。

 関係人口関連では、長期滞在客や短期定住客相手の、建設需要も重要だ。

 ニセコや倶知安などでは、観光の活性化が旺盛な建設投資に結び付いてきた。外国人向けのホテルのほか、リゾートマンションや別荘も増えてきた。地元の建設事業者や、不動産事業者への波及効果は大きい。

 沖縄でも、ホテルはもとより、民泊施設やマンスリーマンションがどんどん増えている。

 観光が、1泊型から滞在型へ、短期定住型へと発展していくのは世界共通の流れであり、その流れをうまく取り込むことは、人口減少に対する有効な対処策となり得る。

 ――地方創生に不可欠なハード、ソフトなどの要素は。

 「地域振興の決め手は、高速交通体系整備と工場誘致だ」という固定観念は、長く地方を縛ってきた。しかし今や高速道路はどこにでもあり、新幹線駅の所在地も、ほとんどは人口減少自治体だ。

 自動化、省力化の進んだ平成以降、工場誘致で人口の増えた自治体も、ほぼ皆無と言ってよい。

 この時代の地域振興に何が必要かといえば、当たり前だが、地元企業の経営の革新だ。経営努力をせずともインフラが整備されれば売り上げが増えたなどというのは、昭和の時代の話である。

 農業に関しては、個々の事業者が産品の質と供給を安定させない限り、ブランドは確立できない。

 観光地も同じ。時代に合った努力をしない旅館が残っていては、全体の足が引っ張られる。

 不可欠な要素は客目線だ。ただし、都会の客の目線と、地元客の目線は峻別(しゅんべつ)しなければならない。高齢の経営者ほど、「自分だったらこういうところに行きたい」と思うのだろう。地方の人があこがれる、ミニ東京のようなものを作りたがる。だがそこには、東京の人は当然、行かないわけだ。

 都会の客や海外の客を呼びたいのであれば、地元客の目線は完全に忘れた方がよい。センスのずれは、致命傷になる。

 さらにインバウンド客のような、わざわざ遠くから高い旅費を払ってくる人を呼び込みたいのであれば、安ければいいという考え方では失敗する。

 高速デジタル回線といっても、必要ない人には不要だ。逆に、ワーケーションを呼び込みたいのであれば必要だ。誰が客かが問題。それを定義せずに、こういうハードやソフトがあればお客さんが来るのではないかというのは間違いだ。

 わが店の前に道路が通れば、わが店にデジタル回線が通れば売り上げが上がるという、プリミティブなことで何とかなった時代はもう何十年も前に終わっている。そのことに早く気付くべきだ。

 その上で、遠くから、特に欧米インバウンドのいいお客さんを呼びたいとするならば、一番重要なポイントは景観だ。

 美しい田園や海岸で、標識や電線やコンクリート橋や埋め立て地を見ると、欧米客は怒りを覚え、悲しくなる。われわれで例えて言うなら、カリフォルニア辺りのすし屋で、ネタはうまいのに必ずコーラがセットで付いてくるようなもの。日本人なら、腹が立って悲しくなり、もう行かないだろう。

 外国人の富裕層をマンツーマンで連れて歩く事業者に聞いた話だが、日本の景観の壊され方に憤る客を、最後に石見銀山に連れていくと、見事に保全された景観と生活文化に機嫌が直り、リピート率が高くなるそうだ。

 ――コロナ禍で旅館をはじめ、全国の観光事業者が疲弊している。激励とともに、生き残るためのアドバイスを。

 宿泊事業者、観光事業者は、コロナ禍の中で甚大な風評被害を被った。

 風評被害と断言するのは、コロナを広めたのは旅行客ではないからだ。

 2020年の1月下旬は中国の旧正月で、百万人単位の中国人観光客が日本にやって来た。その中には武漢の在住者も多々いただろう。

 その後、3月から4月にかけて第1波が起きたのだが、では20年の5月末までの累計で、国際観光地ではどれぐらいの感染者が出たか。例えば軽井沢はゼロ人。ニセコ、南紀白浜、飛騨高山、いずれもゼロ人だ。

 別府では感染者が累計3人出たが、うち2人が大分の医者で、1人が海外で感染した学生。別府に限らないが、旅館では、感染は起きなかった。

 成田空港のある成田市は5人だったが、うち3人は東に離れた東庄町の福祉施設の従業員だった。市内在住の、空港や航空会社勤務の1万人弱の中には、感染者はほぼ出ていなかったのだ。

 東京の屋形船で武漢から来た観光客から従業員にうつったという話があったが、これは間違いだったと後に小池都知事が訂正している。

 第1波は、欧米で変異したウイルスを、帰国した日本人が東京の盛り場に持ち込んで、そこから広がった。第2波と第3波は、1名の新宿在住者の体内で変異したウイルスが、広まったものだ。第5波のデルタ株も、5月中旬に感染の判明した、海外渡航歴のない1名の首都圏在住者が大元であり、五輪とは無関係だった。以上は、国立感染研の遺伝子解析で判明した事実である。

 感染は、換気の悪い室内で他人と濃厚接触した場合、つまりマスクなしで口を近づけて会話をした場合に起きる。

 公共交通機関や宿泊施設は換気されており、他人と濃厚接触する場でもない。だから乗務員や従業員に、クラスターは発生していない。ラッシュの電車内でも、感染は起きていない。

 Go Toトラベルについても、始まってから2カ月間、毎日新規感染は減っていた。10月に東京を加えたところ、上京して盛り場で濃厚接触した人からウイルスが拡散したが、普通の旅行では感染の危険は少ない。

 その上ワクチンの普及で、第4波では1・8%だった死亡率が、第5波では0.3%に下がった。

 南アフリカから広まりつつあるオミクロン株も、現地の数字を見る限りでは重症化率が低い上、マスクやワクチンが有効なのも同じだ。

 欧米諸国は、ワクチンを接種し、入国時に陰性だった日本人を、ホテル待機なしで受け入れている。日本も同じ措置ができるはずだ。心配なら入国後2週間の間は追加検査を求めれば良い。

 お客さんは旅行に出たくてうずうずしている。「コロナで新しい生活様式」と騒いだのは浅薄で、10万年続く人類の遺伝子に変化はない。会食の欲求も、好奇心も不変だ。現地に立つことは、デジタルでは代替できない。

 だが今度は大地震が来るかもしれない。紛争もあり得る。10年に1度ぐらいは何らかの打撃があると考えておいた方がよい。その際にも、生き延びられる備えが必要だ。

 飢饉(ききん)を生き延びるには、食糧を備蓄しておくしかない。観光も、平常時にしっかり稼いで、更新投資をしなければならない。

 日銭が入るからと低単価路線に走って、客数だけを増やすのはだめだ。

 今度、お客さんが戻ってきたときは、相手にすべき客をしっかり見定めて、その客目線でサービスを作り、得たお金で投資をすることだ。

 

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