【マンスリーリポート 観光の現場 流れを読む8】温泉地、民泊制限できない?


法案、「生活環境」悪化は条例で規制

 民泊法案(住宅宿泊事業法案)が10日に閣議決定され、国会に提出された。政府は、違法民泊の横行に対しルールを整備するとともに、民泊を普及して宿泊サービスの多様化を目指す考えだ。しかし、生活環境への影響だけでなく、旅館・ホテル業との競争条件の平等化、観光地・温泉地づくりとの調和など、民泊新法の運用には観光産業、観光地域として考えるべき課題が多い。

年180泊、日数順守に不安も

 政府に規制改革を提言する諮問会議、規制改革推進会議の第11回会合(2月23日)の議事録によると、民泊法案に関する観光庁からの説明、委員と観光庁の質疑応答の結果を踏まえ、大田弘子議長(政策研究大学院大学教授)は次のように発言した。

 「年間の提供日数について、上限180日は実際に宿泊した日数でカウントし、連続した日であることは要件としないという、ここが守られて、ともあれ安心した。地域の実情の反映について、自治体の条例による制限が最小限かつ例外的とすべきことをこの会議としてもずっと求めている。これ以上後退することはないようにお願いしたい」

 規制改革を推し進める側からの発言で、民泊の法整備に対する旅館・ホテル業団体の主張とは異なる意見だ。日本旅館協会、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会などは、年間提供日数について実際に宿泊客を受け入れた日数ではなく、予約可能日とし、不正防止のため、連続した日数とすることを要望。条例による民泊の制限についても、地域の意志を尊重するように求めてきた。

 民泊法案では、提供日数について「国土交通省令・厚生労働省令で定めるところにより算定した日数が1年間で180日を超えない」と定める。詳細は省令に規定されるが、政府は予約可能日ではなく、実際に宿泊した日数で180泊とし、期間の連続、不連続を問わない方針だ。

 都道府県、保健所設置市などに認める民泊の制限では、「生活環境の悪化を防止するため必要があるときは、合理的に必要と認められる限度において、政令で定める基準に従い条例で定めるところにより、区域を定めて、住宅宿泊事業を実施する期間を制限することができる」と定める。石井啓一国土交通相は10日の会見で、「過度な制限を抑制しつつ、地域の実情が反映された対応がなされるよう、適正な運用に努めていく」と述べた。

 旅館・ホテルと民泊の公平なビジネス環境、提供日数不正など違法営業の防止、地域の判断による民泊の制限などを求めて、国会議員などへの陳情活動を展開してきた日本旅館協会。17日の理事会では、民泊法案の問題点、今後の要望活動方針などについて確認した。

 同協会の針谷了会長は、法案の問題点について「年間180泊できる状態で『住宅』と言えるのか。その日数の管理はどうするのか。衛生確保や宿泊者名簿の作成などの義務が課されているが、詳細は示されていない」と指摘。条例による制限では「温泉地や観光地を抱える市町村、家主不在型民泊を認めたくない市町村などの意見が反映できる制度とすべき」と訴えた。規定の詳細は今後定められる政省令などで具体化されることから、その検討状況に注視し、引き続き関係機関への要望活動を展開していく考えを示した。

 条例による制限のあり方次第で観光地域を取り巻く環境は大きく変わる可能性がある。どのような場合に、どの程度の制限が可能なのか、現時点では詳細は示されていない。条文からは「生活環境の悪化」が前提のように読み取れるが、観光地や温泉地が、観光まちづくりや観光戦略の方針に基づき民泊を制限することはできないのか。

 こうした疑問に対し観光庁の田村明比古長官は、15日の専門紙向け会見で、「需給調整的な条文を入れることは、最近の立法例では認められていない。他方で『生活環境の悪化』とあるように良好な環境を壊してしまうことについては、ある程度の幅を持った表現ではある」「良好な温泉街の雰囲気みたいなものは、そこで生活をされる方々の良好な『生活環境』ということで、(条文を)読める可能性は結構あると思う」と述べ、運用については政令に加え、ガイドラインを作成して具体化する方針を示した。

【向野悟】

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