【私の視点 観光羅針盤122】世界記憶遺産への期待 石森秀三

  • 2017年11月13日

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)は10月末に会議を開催して、「世界の記憶(以下、世界記憶遺産)」登録案件の選定を行った。

 ユネスコはすでに「世界遺産」事業と「無形文化遺産」事業を手掛けており、多くの人々の知るところとなっている。ところが残念ながら「世界記憶遺産」事業はまだあまり知られていない。

 これは、人類が記憶して後生に伝える価値があるとされる古文書や書物などの歴史的記録物を保全し、広く公開することを目的にした事業で、1992年から始められている。

 これまでに英国の大憲章「マグナ・カルタ」、フランスの「人間及び市民の権利の宣言」、ドイツのベートーベンの「第九の楽譜」、オランダの「アンネ・フランクの日記」などが世界記憶遺産として登録されている。

 日本では長らく申請が行われなかったが、2011年に九州の炭鉱絵師・山本作兵衛の作品群が申請されて登録が認められた。

 その後、藤原道長の日記「御堂関白記」、スペインとの共同申請による「慶長遣欧使節関係資料」、「舞鶴への生還 1945~1956シベリア抑留等日本人の本国への引き揚げの記録」、「東寺百合文書」が登録されている。

 日本ではむしろ15年10月に中国が申請した「南京大虐殺の記録」が世界記憶遺産に登録された時にマスメディアが大きく取り上げて話題になった。

 現に日本政府は審査過程で日本の考え方が十分に反映されなかったとして遺憾の意を示し、その後にユネスコへの分担金(約38億円)と拠出金(約5億円)の支払いを停止する事態になった。今年10月末のユネスコの会議では中国や韓国の民間団体が申請した「旧日本軍の従軍慰安婦関連資料」について登録の是非の判断が延期されている。

 今回、日韓両国の自治体などが共同申請した江戸時代の外交資料「朝鮮通信使に関する記録」と、群馬県の古代石碑群「上野三碑(こうずけさんぴ)」が世界記憶遺産に登録された。しかし、第2次大戦中に「命のビザ」で多くのユダヤ人難民を救った外交官杉原千畝の資料「杉原リスト」は残念ながら登録が見送られた。

 岡山県瀬戸内市は11月5日に開催した「瀬戸内牛窓国際交流フェスタ」で朝鮮通信使行列の再現を行い、世界記憶遺産への登録を祝った。

 この行事には、瀬戸内市と友好交流協定を結ぶ韓国・密陽市の中学生ら約180人も参加し、華やかな王朝衣装などを身にまとい、朝鮮舞踊を演じたりして、市民との交流を深めた。

 ユネスコの世界遺産はすでに観光の面でも重要な役割を果たしている。今後、世界記憶遺産も観光を通して、より多くの人々にその重要性や意義が伝わり、遺産の保全・活用が促進されることを期待したい。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

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