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観光業界人インタビュー 第2940号≪2018年5月31日(木)発行≫掲載
震災後も残る風評被害
「本物」であり続ける研鑽

四季彩一力(福島県磐梯熱海温泉)社長
小口 憲太朗氏


──5月20日に創業100周年を迎えられた。

 「曾祖父の小口小四郎が1918年(大正7年)、この地に『一力ホテル』を開業した。1944年(昭和19年)に帝国海軍病院寮指定、1945年(昭和20年)に進駐軍指定旅館になるなどの歴史を経て、1949年(昭和24年)に国際観光旅館指定を受けた」

──皇族が何度もご宿泊されている。
 
 「昭和天皇皇后両陛下は2回、秋篠宮殿下も2回ご宿泊を賜った。他にも多数の皇族の方々にご宿泊いただいている」

──英国のウィリアム王子も15年にお泊まりになった。外国の要人が東日本大震災の被災地にご宿泊されたのは初めてだったと聞いている。

 「復興庁、外務省、官邸、福島県警から連絡があり、安倍総理大臣主催の歓迎晩餐(ばんさん)会を当館で開催していただいた。風評被害に苦しむ福島県への日本国と英王室の温かいお心遣いに大変感謝している」

 「外務省からの要請もあり、郡山産山芋、阿武隈高原えごま豆腐、川俣軍鶏、相馬港の鱈(たら)、福島牛、会津田舎味噌など、可能な限り福島県産の食材を使った献立をご用意した。福島県産野菜は安全確認されたものが流通していたが、漁港はまだ試験操業の段階だったので、鮮魚の入手には少々苦労した」

──東日本大震災の影響はまだ残っているか。

 「この場所は地盤が岩盤で、地震の揺れによる被害はほとんど受けなかった。ただ、福島原発が被災したことによる風評被害は根強く残っている」

──震災直後からの宿泊者の動向は。

 「直後は宿泊予約がほぼキャンセルになった。その後、新潟などに避難する県内の方々の予約が入り始めた。次に県外から来られる工事関係者、保険の査定の方々などの宿泊が増えた。また約2年前までは警戒区域を交代で警備する各県警の各機動隊にご利用いただいていた」

──一般客が戻り始めたのは、いつ頃からか。

 「9・11(11年)の半年後ぐらいから、大手旅行会社の社員旅行や復興応援ツアー、首都圏の企業の持ち出し会議などをいただけるようになった。その後、15年4〜6月にJRグループの『福島デスティネーションキャンペーン(DC)』、同4〜9月にJTB『日本の旬・東北キャンペーン』、また16年4〜9月にはJTB『東北絆キャンペーン』をやっていただいた」

──宿泊客数は震災前と比べてどうか。

 「当館の場合、キャンペーン期間中は震災前の9割ぐらいまで回復した。終了後の昨年は震災前の約8割と非常に厳しかった」

 「安全と安心は違う。科学的根拠に基づいて安全であっても、安心して食べたり、旅行したりというのは、個々人の気持ちの問題なので非常に難しい」

──インバウンド宿泊客数はどうか。

 「福島県では、昨年にやっと震災前の水準を超えた。当館は特に台湾からのツアーのお客さまが多い。台湾の方々は『日本』『本物』を評価し、応援して下さる」

──国内客の動向は。

 「首都圏からの宿泊客数は震災前には戻っていない。対策として、販売チャネルを増やしたり、営業先を中京や関西まで広げたりしている」

 「風評エリアなので、目的がないと足を運んでいただきにくい。そこで、福島県では『ホープツーリズム(HOPE=希望)』を推進している。被災地やその後の復興、復活状況を見ていただく旅だ。例えば、産業技術総合研究所が郡山市に新設した持続可能エネルギーの研究拠点を見学したりする」

──切り口を工夫すればそれが特色になる。

 「どの観光地であっても、どの施設であっても、オンリーワンや日本一や世界一がなければお客さまが来ない時代が来ると思う。被災したために、そこに取り組まざるを得なくなった福島県は、観光の最先端を行く存在になったのだと考えている」

──次の100年に向けた意気込みを。

 「『本物』であり続けるために研鑽(けんさん)を重ねていく。当館を応援してくださる方々のご期待に応えたい」

【おぐち・けんたろう】
東京大学工学部卒、52歳。93年に一力旅館入社、09年代表取締役社長就任。磐梯熱海温泉旅館協同組合副理事長、福島県旅館ホテル生活衛生同業組合常務理事、JTB旅ホ連東北支部連合会会長、東北観光推進機構理事。

【聞き手・江口英一】


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