観光事業者や学識経験者で構成する観光庁の観光産業政策検討会(座長=山内弘隆・一橋大学大学院商学研究科教授)は、観光産業の強化策を提言としてまとめた。産業分野別やテーマ別に施策の方向性を提示。宿泊産業に関しては、経営や生産性に関する意識、実務能力が不十分な事業者が多いとして、中小規模の旅館などでも導入しやすい管理会計のモデルを構築するなど、経営改善を促す支援策の必要性を指摘した。
観光庁は、外客誘致のプロモーションなどに力点が置かれてきた従来の政策のあり方を課題として、観光産業の強化策を模索。委員18人で構成する検討会を昨年9月に設置し、議論を促してきた。提言は18日に開かれた第4回検討会でこれまでの議論を集約したもの。近く文章を調整した上で最終版を公表する。
宿泊産業の強化に関しては、旅館業を中心に「前近代的な経営から脱却し、的確な財務・労務の管理等による科学的な企業運営を普及させる仕組みが必要」として、(1)マネジメント・生産性の向上(2)金融機関との連携(3)海外展開(4)所有と経営の分離、新たな経営スタイルの導入・促進—の4つを政策テーマに掲げた。
特に、マネジメント・生産性の向上では、経営者の“自助努力が基本としながらも、財務指標のモデル化や経営のベンチマークづくりとともに、中小規模の旅館でも導入可能な簡便な管理会計システムを構築する必要性を指摘。無駄を省いた的確な労務管理の実践などを含め、事業者の理解を促すように求めた。
また、新たな経営スタイルの導入・促進に向けては、旅館再生の選択肢として(1)所有と経営を一体で行う形に固執せず、ノウハウを有する者に委託して経営を効率化する(2)仕入れなどのコスト削減に向けて、複数の宿泊施設の協業化・グループ化を推進する(3)地域の複数の宿泊施設を一体化して、集約または他用途への転用を行い、金融機関や資金提供者の連携を得て事業を再構築する—などを挙げた。
このほかに宿泊業の関係では、日本の観光ブランドを確立する施策の一つとして、外国人旅行者に施設や設備、サービスの内容を分かりやすく伝えるための情報提供の仕組みを2013年度に検討することが盛り込まれた。また、ITの普及に対応した施策の一つとして、旅館・ホテルを含む観光事業者とインターネットサイト運営企業との信頼関係の構築、取引に関するルールやガイドラインの整備のための対話の場が必要と提言している。
宿泊産業のほか、旅行産業については、国際競争力の強化や経営の変革を促す基盤づくりとして、旅行業法をはじめとする制度を見直す必要性に言及。13年度に検討の場を設け、具体的な方向性を打ち出すように要望。また、旅行に伴う事件・事故の増加を踏まえ、旅行にかかわる安全管理の制度設計について議論し、13年度に方針を示すように求めた。
18日に開かれた第4回の検討会