観光地域づくりの中核として期待されるDMO(観光地域マネジメント・マーケティング組織)。観光庁は8日、「日本版DMOの形成に向けて」と題したシンポジウムを東京都内で開いた。地方創生交付金に関連して注目が集まっているDMOだが、そのあり方を国内外の有識者が講演やパネルディスカッションを通じて提言。米国カリフォルニア州ナパ郡のDMOの事例も紹介された。
政府は日本版DMOの形成に地方創生交付金を充て、地域の取り組みを促進している。地方創生を担当する伊藤達也・内閣府大臣補佐官(衆院議員)は「交付金のためでなく、DMOを根付かせて地域を活性化することが重要。そのための環境整備を進めていく」と述べた。
観光庁は、地域の取り組みの支援に向けて日本版DMO候補法人の登録制度を創設。登録の要件には、(1)多様な関係者の合意形成(2)データ収集、戦略策定、KPI(重要業績評価指標)設定、PDCAサイクル確立(3)関係者が実施する事業と戦略との調整、観光サービスを評価する仕組み、一元的なプロモーション(4)組織の構築、人材の確保(5)安定的な運営資金の確保—などを挙げている。
合意形成や戦略策定のあり方に関しては、観光圏整備法に基づく雪国観光圏のプラットフォームを担う雪国観光圏(一般社団法人)の井口智裕代表理事が「地域独自の文化価値は、多様な関係者の連携によって初めて形が見えてくる。その価値をツーリズムが産業につなげる。人材育成と理念共有が土台になる」と述べ、多様な関係者を巻き込み、戦略を共有する重要性を指摘した。
日本版DMOの確立では勘や経験に頼らない、科学的なデータに基づいたマーケティングを重視。データ収集では従来の統計の活用に加え、政府のまち・ひと・しごと創生本部が、ビッグデータを利用した地域経済分析システム「RESAS」の活用を提案した。移動、滞在、消費など観光関係のデータをインターネット上に公開している。
データ収集に関しては、ナパ郡のDMO、観光マーケティングの公式団体である「ビジット・ナパバレー」(VNV)のクレイ・グレゴリーCEOが取り組みを紹介した。旅行者の訪問数や属性、消費額などのデータを定期的に収集。地域経済への貢献度なども算出し、観光の重要性を地元に幅広くアピールする事業も重視している。
VNVが収集するデータはマーケティングに活用するだけでなく、地域の関係者にDMOの活動成果を示すKPIとなっている。VNVは、米国の観光産業改善地区(TID)制度に基づき、宿泊料に課金して得た収入を税源にしており、宿泊事業者に成果を示す必要がある。「VNVの成果に不満があれば、他の組織に任せることもできる」(グレゴリーCEO)。
DMOの組織形態では、新組織の設立が必ずしも要件ではない。日本観光振興協会の見並陽一理事長は「組織論ではなく、DMOという機能が重要だ。自らイノベーションし、外部の知見を取り入れ、観光協会などがDMOの機能を確立しないと観光地域は生き残れない」と訴えた。DMOの財源のあり方では、地域の実情に見合った手法が必要だが、VNVのTID制度に基づく仕組みなどが説明された。
シンポジウムには米国のDMO関係者も登壇