観光の雇用創出、「工場に匹敵」と観光白書


 政府が12日閣議決定した07年版の「観光白書」は、特集にあたる「06年度観光の状況・第1部」の中で、観光が地域にもたらす経済効果を独自に試算して紹介している。青森、群馬、岡山、大分の4県を事例に、観光客数が一定割合で増えた場合などのシミュレーション分析を行ったもので、生産波及効果や付加価値誘発効果など、いずれの県でも高い経済効果を裏付ける結果が出た。特に雇用誘発効果は、地元の有力工場と比較しても劣らない規模だと指摘している。

 4県を事例に選んだ理由は、(1)大都市圏に含まれない県(2)大都市圏からの時間距離が比較的近い県(群馬、岡山)と遠い県 (青森、大分)(3)人口、県内総生産が中規模程度の県──。他の地域への参考となるような事例として分析した。

 青森県の場合は、東北新幹線八戸駅開業で観光客数は伸びているが、宿泊数は減少。そこで滞在型・体験型観光を推進して宿泊客数を04年実績から10%増加させたとすると、新たに1650人の雇用誘発効果が生じる試算結果が出た。白書は「県内の有力な鉄工業の主要工場の従業員数の5倍」と表現している。生産波及効果では158億円、付加価値誘発効果は92億円の上積みがある。

 岡山県では、県の目標値に合わせて04年実績から観光客数で7%、観光消費額で8.9%を増やすと、雇用誘発効果は1550人。「水島工場地帯に立地する国内有数の石油化学工場の従業員の8割の規模に匹敵」。生産波及効果167億円、付加価値誘発効果100億円も生じる。

 大分県は、日帰り客からの転換で宿泊客数を04年実績から4%伸ばし、日帰り客の観光消費額を10%増やすと、雇用誘発効果は2400人。「県内の主要な半導体集積回路製造工場の従業員数に匹敵」。生産波及効果は215億円、付加価値誘発効果は129億円が増える。

 群馬県の場合は、県外からの物品の移輸入率が高く、観光の波及効果が大きいとされる農林水産業や食料品製造業への効果が小さく表れる特性がある。このため移輸入率を同じ内陸県の長野県並みに引き下げて分析、経済効果が拡大することをデータで裏付けた。

 観光客数を群馬県の目標値に合わせ06年度比9.3%増に、さらに移輸入率を農林水産品で現状の63%から43%に、食料品で75%から67%に引き下げれば、生産波及効果は221億円、付加価値誘発効果は119億円、雇用誘発効果は2500人が生じる。移輸入率を下げない場合の効果と比較すると、生産波及効果で57億円、付加価値誘発効果で27億円、雇用誘発効果で750人の差が出る結果となった。

 群馬県の移輸入率の高さは、物流ルートが東京圏や新潟などと直結していることなどに起因するが、白書は「旅館などで、地場の食材を十分に活用せず、県外から移入された海産物などを利用していることにも原因があると推察される」と言及。観光と地場産業との関連性が経済効果に表れることを指摘した。

国全体の経済効果は10年度で65兆円に

 観光白書は、観光が国全体にもたらす2010年度の経済効果について推計した。政府が描く経済成長のシナリオを前提に、訪日外客や団塊世代の旅行需要の増加、現役世代の有給取得率の向上などを条件に試算した結果、国内観光消費額は05年度比21.4%増の29兆6600億円となり、生産波及効果65兆2千億円、付加価値誘発効果35兆7700億円(名目GDP比6.2%)、雇用誘発効果528万人(全就業者数比8.2%)と推計した。

 試算は、(1)訪日外客数1千万人(2)団塊世代(55〜59歳)の国内日帰り旅行を男性1.58回増、女性1.68回増、国内宿泊旅行を男性0.50回増、女性0.73回増(3)働く現役世代の有給休暇取得率55%──を実現することを条件にしている。

 白書は、この推計について「楽観的過ぎるとの指摘もあり得る。しかし、観光が、我が国経済のさらなる成長の一翼を担うためには、積極的に地域資源の魅力を高め効果的な活用を図ることなどにより観光交流を活発化させることがカギであり、各地域における経済効果を高める取り組みを重ねることが不可欠」と観光関係者に奮起を促している。

 
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