秋田県横手市の増田町は、江戸時代から明治、昭和初期にかけて商人の町として栄えた名残で、レトロな商家の街並みが現存している。メーンストリートの中七日町通りには、間口に対して奥行きがある短冊状の地割りに伝統的な建物が並ぶ。建物の内部には、家財を雪から守るため、家の中に建てた「内蔵」(うちぐら)があるのが特徴。内蔵と同様の蔵は他の地方にもみられるが、一地区に集中して現存しているのは珍しい。横手市では、「蔵の町」として観光への活用を進めている。
増田町は江戸時代から商業が盛んになり、葉タバコや生糸など物資の集散地としてにぎわった。明治期には増田銀行(北都銀行の前身)をはじめ水力発電、陶器生産などの会社が興った。
中七日町通りの地割りは、間口が5〜7間(9〜12.6メートル)と狭いが、奥行きは50〜100間(90〜180メートル)近くもある極端な短冊形。伝統的な建物は、通りに面した主屋から、内蔵、外蔵と続く独特の商家建築となっている。国の登録有形文化財に登録されている建物もある。
内蔵とは、主屋と一体となり、全体が上屋で覆われた土蔵。家財を保管する文庫蔵、座敷などがある生活空間の座敷蔵などに機能が分かれる。扉に黒漆喰を施したり、細部の飾りに趣向をこらしたりするなど内外部の装飾が美しいものもある。
内蔵と同じ様式の土蔵は、雪国を中心に各地に見られるが、増田町のように約400メートルの通り沿いに集中して現存している地域は珍しい。内蔵は外から見えないため、2008年の調査まで実態が分からなかったが、現在、45棟の内蔵が確認されている。
内蔵のある建物は、現在も住宅、店舗として利用されているが、住民の協力により14軒が一般に公開されている。内蔵の公開日や見学料金の設定、予約方法は建物によって異なる。
このうち1軒は、観光情報の紹介や土産の販売を行う観光物産センター「蔵の駅」として11年11月から営業。大正期に建てられた金物屋を改装したもので、建物の中にある内蔵を見学することができる。
まち歩きを楽しむ旅行者が増え始め、観光ガイドも活動。毎年10月には、「蔵の日」を設定して、通りを歩行者専用にし、内蔵でコンサートや絵画の展示などのイベントが行われている。
横手市は来年度、増田町の街並みを重要伝統的建造物群保存地区に選定するよう文化庁に申請する方針。保存地区に適用される国の補助事業などを活用し、建物、街並みの修理・修景などを進めたい考え。市観光物産課の本戸卓也氏は「蔵の町を通年観光の目玉としてPRしている。重要伝統的建造物群保存地区への申請、10月からの秋田DC(デスティネーションキャンペーン)などを契機に認知度を高めていきたい」と話している。
歴史のある建物が残る増田の街並み