温泉旅館からの排水に含まれるホウ素やフッ素の規制基準が7月から厳しくなることで、旅館業者や温泉地を抱える自治体などは危機感を強めていたが、環境省は3月29日、実施を3年先送りすることを決めた。また同省は旅館の排水規制について特に言及、現時点での考え方を示した。処理機(除去装置)の問題については「処理過程で大量に発生する廃棄物の削減、省スペース化、低コスト化といった課題の解決に向け、関係業界による技術開発を促していく」と述べている。
同省は6月に水質汚濁防止法に基づく省令を改正し、現行の暫定排水基準を2010年6月末まで延長する。対象は旅館業を含め、電気メッキ業やうわ薬製造業など7業種。
ホウ素やフッ素は人体への健康被害が懸念され、01年の政省令改正で有害物質として加えられた。周知期間は3年間とし、工場などを含めた排水基準(一律基準)はホウ素が1ミリグラム当たり10ミリグラム以下、フッ素は同8ミリグラム以下と定められた。
しかし、温泉を利用する旅館業の場合、直ちに対応するのは困難として、規制が緩やかな暫定基準(ホウ素は同500ミリグラム、フッ素は同15~50ミリグラム)の対象としていた。
旅館業を含めた26業種については、04年にさらに3年間暫定措置が延長され、今年6月末にその期間が終了。7月からは一律基準が適用されることになっていた。
旅館側は除去装置導入に多額の費用負担がかかるため「暫定基準が撤廃されれば、廃業に追い込まれかねない」などと反発。また、(1)温泉は自然に湧き出すものであり、そこを規制するのはおかしい(2)日帰り温泉入浴施設は排水規制対象外であり、旅館だけを規制するのは平等ではない――として、適用延期を求めていた。
各地の温泉旅館組合に加え、全国市長会の温泉所在都市協議会(87市で構成)も暫定基準の延長や、除去装置の低廉化のための技術開発や設置促進に向けた財政支援を行うよう要望書を同省に提出していた。
同省は暫定基準延長の決定に伴い、今後3年間でこれまで以上の改善を進める方針。具体的には(1)業界ごとに実行可能な計画の作成(2)専門家による技術的助言の実施(3)処理技術の開発――などを実施し、「産官学一体となってフォローアップに努める」(水環境課)考えだ。
同省は旅館側からの意見について特に言及。温泉への規制については、「源泉からの湧出量はその3割弱が自噴だが、7割強は動力による汲み上げで、多くの温泉ではこれらが混在した状態で利用されている。自然由来の温泉は全体の3割に満たない状況。公共用水域の環境保全の観点から状況把握に努めていく」としている。
また、日帰り施設との関係では、ホウ素、フッ素を含む火山地帯の温泉地にある日帰り温泉から、大深度掘削により鉱物をほとんど含まない水を汲み上げている都心の日帰り温泉まで「形態は多様」と指摘。「実態については精査が必要であり、情報収集し検討を進めていく」とした。
規制強化を免れたことで、温泉旅館業者、関係自治体の担当者は安堵の表情を浮かべる。しかし同省の立場としてはそうそう譲歩はしていられないのも事実であり、業界は10年7月を見据えた真剣な対応が求められているといえそうだ。