日本観光研究学会は5月27日、東京の立教大学池袋キャンパスでシンポジウムを開いた。「自然災害 観光に何ができるか」をテーマに、5氏がパネルディスカッション。災害による風評被害を受ける観光地が多い中、きめ細かい情報発信でその被害を縮小するなどの対策が示された。
由布市まちづくり観光局(大分県)の生野敬嗣事務局次長は、昨年4月の熊本地震で地元の由布院温泉などが大きな風評被害を受けた経験談を披露。
地震発生から約2週間で34社、延べ100人を超すマスコミ対応をしたが、「マスコミは被害が大きく、住民が苦労している姿など、ネガティブな情報をほしがる。ポジティブな情報を発信したいわれわれと意識が異なる」と指摘。
マスコミ対応で心掛けたこととして「マスコミ対応窓口の一本化(多くの人が異なる情報を発信しないようにする)」「取材拒否をいとわない姿勢(ネガティブ情報を発信しない)」「自前での積極的な情報発信(SNSなど)」「宣伝ではなく情報発信を行う(具体的な情報発信)」などを挙げた。
由布市の観光入り込み客数は昨年4、5月に前年同月の約半分に落ち込んだが、「九州ふっこう割」の効果もあり、8月以降はほぼ前年並みに回復した。
ただ生野氏は「観光客数の戻りばかりが話題になるが、お客さまの意識が変わっているのではと気になっている。お客さま心理の変化を知ることが今後の観光にとって重要」とした。
JTB総合研究所の河野まゆ子主任研究員は、危機管理の専門家として、風評被害のメカニズムを分析。
「風評は、人がよかれと思って拡散しているケースがほとんど。ただ、その風評が人の不安を一層あおる。風評をなくすことはできない。どう遮断して、正しい情報を発信するか。平常時からその態勢を整える必要がある」とした。
対策の好事例として、2014年に大雪被害を受けた長野県佐久市の例を挙げた。同市では大雪で道路が寸断される状況の中、市長が市民らにツイッターでそれぞれの現場の情報提供を呼び掛け、その情報をもとに正しい情報の発信や、自衛隊の派遣依頼を行った。
河野氏はまた、被害を受けた観光地の復興プロモーションの時期について、「宿のキャンセル数と新規予約数が逆転した時が潮目だ。行政はこの数字をしっかりと把握して、タイミングよくプロモーションを行うべきだ。タイミングが遅れれば回復も遅れる」とした。
高崎経済大学の大野正人教授は、風評被害の回復に向けて、子連れの家族や高齢者など、リスクに敏感な客層に向けて優先的にプロモーションするべきと強調。
また客層ごとにきめ細かな対応を行うべきだとし、情報提供のツールとして機動性があるインターネットが効果的だとした。“応援需要”が発生する、普段からの地域のファンづくりも重要とした。
岩手大学の広田純一教授は、東日本大震災の被災地の視点で、観光が地域の復興へ好影響を与えた事例を報告。
首都圏と近畿圏の住民を対象としたアンケート調査で、約25%が震災後の東北旅行を控えたというデータがある中、ボランティアや視察などの復興ツアーが地域の雇用創出や住民の元気づけに結び付いたと評価。
ただ、社会インフラの整備が優先で、観光インフラの復旧が後回しにされている現状や、復興支援がなくなったあとに観光地が自立して稼げるようになるかなどの不安もあるとした。
九州産業大学の横山秀司教授は、日本観光研究学会の立場から、風評被害や被害からの復興に関する調査、研究を継続的に行うことで“復興ツーリズム”を支援したいとした。